愛たい夜に抱きしめて
꙳☄︎
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「きよら、しぐれ、なんでおれ置いてったの」
「氷昏兄さん、何回揺すっても起きなかったから……」
とてとて、氷昏が恨めしそうに紫昏くんの後ろを歩く様は、まさにカルガモの親子の行進。
移動教室の授業が終わって、昼休みに差し掛かる頃。
音楽がBGMとなって寝てしまった氷昏を置いて来たのにどうやらお怒りらしい。
「……おれのこと、蹴り落としてくれてよかったのに」
「できるわけないじゃないですか……」
不満げに眉を寄せる氷昏に、紫昏くんはよく見る苦笑いを向けている。
「……ならきよらが起こしてよ」
「わ、わたしもわたしなりに頑張ったんだよ……」
紫昏くんが肩を揺することしかできなかったから、わたしはぺちぺち持っていた教科書で叩いたのに。
「……それで、氷昏兄さん。お昼はどうしますか?朝急に行くって言い出したので、お弁当は用意してなくて……よかったら、僕の分を食べますか?」
「それ、弟にたかる兄の図……」