愛たい夜に抱きしめて
いつもなら、紫昏くんをたくさんの人が囲っているんだけど、今は氷昏がいるからか、すこし離れたところでこちらをチラチラ見ているだけ。
「……では、食堂にでも行きますか?僕もついていきますよ」
「ううん。いいよ。おれ、購買行ってなんか買って食うから」
そう言って、移動教室からの帰り道、とてとて購買の方へと向かっていったのが、およそ15分前のこと。
わたしと紫昏くんは、それぞれ自分の机にて、お昼をとっているんだけど……。
「ねえねえ紫昏くん!あんなにカッコいいお兄さんいたんだね!全然姿見かけなかったから知らなかったよ!」
「氷昏兄さんは、あんまり人目につくのが嫌いなので」
「というか、紫昏の方が兄っぽいんだけど。というかオカン」
「それ褒めてます?」
氷昏がいなくなった途端、紫昏くんの周囲に人が殺到する。さすが人気者。
……けれど、その中心人物は、斜め後ろの席が気になって仕方ないらしい。