愛たい夜に抱きしめて




いつもなら、紫昏くんをたくさんの人が囲っているんだけど、今は氷昏がいるからか、すこし離れたところでこちらをチラチラ見ているだけ。




「……では、食堂にでも行きますか?僕もついていきますよ」

「ううん。いいよ。おれ、購買行ってなんか買って食うから」




そう言って、移動教室からの帰り道、とてとて購買の方へと向かっていったのが、およそ15分前のこと。


わたしと紫昏くんは、それぞれ自分の机にて、お昼をとっているんだけど……。




「ねえねえ紫昏くん!あんなにカッコいいお兄さんいたんだね!全然姿見かけなかったから知らなかったよ!」

「氷昏兄さんは、あんまり人目につくのが嫌いなので」

「というか、紫昏の方が兄っぽいんだけど。というかオカン」

「それ褒めてます?」




氷昏がいなくなった途端、紫昏くんの周囲に人が殺到する。さすが人気者。


……けれど、その中心人物は、斜め後ろの席が気になって仕方ないらしい。



< 50 / 75 >

この作品をシェア

pagetop