愛たい夜に抱きしめて
「澄良、これ読んで」
「氷昏兄さん、自分の趣味を押し付けるのは、」
「あ、いいよ、紫昏くん。わたしもちょっと興味あったから。待ってる間、読ませてもらうね。……というか、お手伝い、」
「それは本当に、大丈夫です」
まるで、キッチンは自分の領域だとでも言うように、紫昏くんはこうやって距離を置く。
「これが僕の、役目なので。……乃坂さんは漫画を読んで待っててください。氷昏兄さんの相手をしてもらえると、助かります」
こんな風に、こっそりと罪悪感を減らす言葉をわすれない。
……やさしい人、だとは思うけど。
それでもやはり、抜けないもの。
「あ、あと乃坂さん」
氷昏が待つリビングのソファへと向かおうとしたら、背後から呼び止められて、体を半分だけ紫昏くんの方に戻す。
戻した先にいた紫昏くんは、いつになく真剣な顔をしていて。
「……今日はすこし、風が弱いみたいなので、お部屋に帰られたあと、ベランダでお話しでもしませんか?」