愛たい夜に抱きしめて
大袈裟だと一瞬思ったけど、それが間違いだとすぐに思い直す。
だってあの人、わたしがタクシーに放り込まなければ、ずうっとあそこに這いつくばっていそうだったから。
「あの……それより、檪さんは、確か同い年、ですよね?」
「はい。ご存じでしたか」
「今年入った一年メンバーで、すっごい美形がいるっていう噂が飛び交っていたので……。特に、一年の教室あたりは」
檪紫昏。彼はわたしの学校内でも割と名の知れたイケメンくん。
実物は初めて見たけれど、やっぱり美麗。
美しい、とか、綺麗なんて安直な言葉で語れないほどには。
「同い年なのに、敬語はおかしいので……」
「………、」
遠回しに敬語はやめてほしいと頼んでみても、無言のニコニコ笑顔を返されるだけに留まる。
す、すごくやりにくい、この人……。
その沈黙を切り裂くように、頼んでいたアイスコーヒーとカフェラテが到着した。