愛たい夜に抱きしめて
猫舌のわたしはアイスコーヒーを意味もなくかき回しながら、目の前に鎮座する人をちらりと伺う。
見た目の割に甘いものが好物なのか、届いたカフェラテをほんの少し嬉しそうに眺めている。
……この人、単にここに来たかっただけじゃないだろうか。
そんなことを思いながら見つめていると、ふと彼の指先に目がいった。
「どうされましたか?」
「あ、いや。その……男性が爪を塗っているのは、初めて見たなと思いまして」
真っ白い手に不似合いな、真っ黒に塗りたくられた爪。
わたしたちが通っている高校は、風紀検査の時以外は見た目云々に関してあんまり言われないけど……男子がネイルをしてるのは珍しい。
「ああ、これですか?爪って、返り血とかつくと洗い流すのが面倒なので」
「………、」
「冗談です」