わたしたち、別れます。
慶斗と、ぜつえん。

大学3年、カタオモイ。

ーピコン。LINEの通知音が、暗い静かな部屋に響き渡る。
開いていたインスタのインフルエンサーがあげている写真から視線を外し、通知の相手をチラリと確認する。
“金納慶斗”。先日別れた私の元カレの名前だ。思わず眉を顰めてしまう。彼が1日も経たずに返信をくれるのは珍しい。
私の「慶くんが部屋においてったピアス。掃除してたらでてきた。いる?」という、なんともそっけないLINEへの返答だが、とてもご丁寧な内容だ。
「それってるるがくれたピアスだよね?いる。とりにいこっか?」
できれば会いたくないな、と返信に迷っていると、ピコンともう一つ通知が来る。
「今日はもう遅いし、また明日連絡するから。おやすみ」
思わず、こんな些細な気遣いに惹かれていたのだなぁと感じてしまう。最近はそうでもなかったが、付き合う前の彼はそんな人柄だった。
返信の件だって、付き合う前ならすぐに既読がついて返事をくれていた。何日も連絡をとっていないなんて、ありえない人だった。
おやすみ、とだけ返信をして考えに耽る。今の彼とならうまくいくんじゃないか。そんなことも考えた。でも、いっそ過去の彼を許してもあの日の繰り返しなのではないかとも思ってしまう。
好きって気持ちだけじゃ、うまくいかないんだな。そんなふうに感じたら、胸がズキズキ痛んだ。どうしようもなく苦しく、スマホの電源を落として布団の中に潜り込んだ。

結局、私は慶斗と会うことを選ばなかった。彼が仕事に行っている時間帯に、彼の自宅のポストに放り込んでおいた。LINEもブロックし、連絡先を消した。
その日の夜は涙が枯れるほどに泣いた。素敵な思い出を二人で共有していたあの頃には戻れないことが一気に現実として襲ってきた上、あれだけ大好きだった慶斗が、今では会いたくない人第一位になっていることにもショックを覚えたからだ。
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