わたしたち、別れます。
「…そう、なんだ」
「心配させたくなかったんだよ。でも、今更言い訳にしか聞こえないか…」
言葉も出なかった。いきなりのことに驚いていたし、こんな悲恋の小説みたいなことがあるのかと絶望した。でも、私は心が綺麗なかわいいヒロインじゃない。わがままで主人公のことが考えられない、非道な元カノだ。
「…あのさ。退院したら、話したいことがあるんだ。だから、待っててくれないかな」
「…うん。わかった。早く退院しなさいよ」
強気の言葉しかかけられなかった。なんて可愛くない女なんだろうと思ってしまうものの、病室からはクスリと小さな笑い声が聞こえた。
「うん。早く会いにいくよ」
「じゃあ、、帰るから」
「うん。ありがと。ばいばい」
「…またね」
ばいばい、とはいえなかった。そのまま慶斗が死んでしまって二度と会えなくなる気がしたから。自分から別れを切り出しておいて、なんてわがままなんだろうと思いながらも、病室を後にした。
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