忘れたまんまの君がポケットに入れていたのは青い日の恋かもしれないと先生は云った
わたしの表情を見て、
シュンは
とこか面白そうに口の端を
上げた。

「さっき言われた。そこの、
ナオヤ(ナオミ)の話ついで
にね。てっきり、お前の方が、
女になってると思ってたって。」

どうして、そうなるかなぁと、
シュンは冗談顔で言うけれど。

「鳥嶋くんは、、話し方のせい
かな。本当は漢男だもんね。」

都会から引っ越してきたからか、
地元の同級生と比べると
物腰も柔らかく、
整った顔立ちの
シュンへ
何かやっかみもあったのだろう。

子どもっぽい揶揄が
当時はかなりあった。

中学時代から、
ジェントルタイプだった
シュンは
サラリとした態度で、
少々の揶揄も
気にしていなかった風。

「家柄いい、お坊ちゃんなだけ
あって、レディファーストなと
ころとギャップがあったよね。」

そんな事を昔話がてら、
シュンへわたしが伝えている内
にも、
どんどん部屋には
同級生達が集まっていて、、
とたんに
同窓会開始の時間になると
聞こえてきたのは、

『41期生のみなさーん、注目!
飲み物を注文すると思いますが
最初の乾杯もあるので、とりあ
えずビールを配りまーす。』

『幹事』と書かれたタスキを
掛けて、
拡声器代わりに紙を丸めた
元男子の叫けび声だ。

『車の人はウーロンでお願い
しまーす。代行頼むなら、メモ
に名前書いてくださーい。』

下の受付で見た2人が、
ビールと
手早くバインダーを回している。

「はいはーい!どんどん回して!」

ユカも
1番端になる自負達の列に
ビールを渡しつつ、
わたしとシュンの分のビールを
手にして戻ってくる。

「ねぇサユ!ナオミ、男になって
たよ!しかも結婚してるって!
奥さんだよ!すごくない?!↑」

しかもただでさえ
賑やかなユカのテンションが、
MAX状態ときていた。

「騒がしなあ、それにナオミじゃ
ないだろ、ナオヤだよ。」

クリーム色の泡が
こぼれそうなジョッキを
受け取るシュンが、
興奮するユカに
つっこむ。

「鳥嶋は、相変わらず細かい!
それに中学の時から女々しい!」

すかさずシュンへ
遣り返すユカの言葉に、
わたしは思わず大笑いをして、
シュンは
白い目をユカに投げていた。

その間にも
4つの部屋の真ん中では、
会の進行は進む。

『ビール!!行き渡った?!
今回は居酒屋での気兼ねない
同窓飲み会です!食べ物は
前もって頼んでいる大皿料理!
飲み放題2時間!!
店は我らが41期生1組の飯田くん
が店長!しかも!ご好意で、
豪華なデザートもついて
おりまーす!楽しんで下さい。
じゃあ乾杯の音頭を、えー、
ヴィゴ!ここは、我らがヴィゴ
にお願いしまーーす!拍手!』

しかも口上を述べる
幹事タスキの係が、
ジョッキと丸めた紙を持って、
OK部屋から
ヴィゴを連れてきた。

「う。静かにしとこう。」

慌てて、大笑いの口を閉じて、
背後に座る人の影に潜める。

けれども
壁や柱で影になるのか、
ヴィゴの姿は見えないと分かると、
わたしは安堵して
隣のユカに、目で合図した。

『それでは皆様!☆ビールを
高く掲げて!!
ヒィア☆ヴィ~~からの~!
レッツ!乾っ杯ぃ~!Ye~s☆!』

相変わらずのラップで
乾杯の音頭を
恥ずかしげもなく
金髪揺らすヴィゴが口にしたのを
きっかけに、
集まった全員が
ビールやウーロン茶を掲げた。

『『『『乾杯ー!!』』』

そして唱和すると、
次は隣や向かいのジョッキを
傾けて、
久しぶりの再開に
互いの音を鳴らし合う。

「さすがに、あの音頭、どう?
肥後タケルは、調子のっちゃっ
てるんじゃない?よねぇ?」

さっきバツイチ名札を見せてきた
『沢田マアヤ』が
ビールジョッキを傾けた
と同時に、
辛辣な感想を向かいに座る
ユカに投げてくる。
そんな
マアヤにユカも同調しつつも、

「だよねー!
でも子どもに、
ヴィゴのサイン頼まれている
んだよねー。あの調子だと
後でもらいに行くの、
ほんとっに!萎えるわー。」

派手にヴィゴを払う様に
手を振って、
鞄から昼間に買った色紙を
マアヤに見せる。

「実は、あたしもぉ。田中さん、
早目に行かない?みんな、色紙
持ってるよ、きっと。ほら。」

マアヤが、
ちゃっかり隠していたのか
色紙を出して、
指差す方を見れば、
なるほど。

向こうの部屋に向かって早くも
色紙やノートを持つ列が
出来はじめていた。

ふと
列のある壁に張られていた
青いポスターに
わたしは視線を止める。

「ねぇ、水族館って無くなるの?
鳥嶋くんは、知ってた?」

ポスターには懐かしい
動物園の名前と、
『さよなら思い出の水族館』の
文字が走っていたからだ。

「そう。動物園の中にあるやつ。
動物園自体経営が難しいとかで
水族館を閉めるんだって。
さみしいな。この辺りでも、
少ないデートスポットだから。」

シュンが直ぐ様電話を差し出して
検索をしたニュースを
見せてくれた。

「わかるー。動物園は、
おこちゃまの天国だけれど、
水族館はデートの定番だった
もんねー。1度は行くみたいな」

ローカルニュースには
水族館の閉館の内容と一緒に、
10年以上前の
海から撮った潜水艇の写真が
掲載されている。

本物の潜水艇を使って
海の中を覗ける窓は
小さな水族館でウリだった。

「なくなるのね、残念。」

「竹花もした?水族館デート。」

そう聞くには、
シュンも地元デートしたのだろう。

「地元デートしたよねー。」

「あたしは別れた旦那とだわ。」

運ばれた大皿から
フライドポテトを摘まんで、
マアヤが嫌そうな声で
ユカに応える。

「それで潜水艇で海酔いするの
よね。ジンクスあったけ。」

つい懐かしくなって
わたしは口から『海酔い』ワード
を出してしまった。

「それそれ!潜水艇でデートした
ら絶対に別れるってやつー!」

「あー、だからか。どーりで
うちのところは離婚したわ。」

「沢田はとこは関係ないよね。」

続くユカの『ジンクス』話に、
マアヤとシュンが笑ったことで
とくに
深く聞かれる事もなかった。

「ジンクスね。」

わたしは、
はじめて
ナガレとデートをした日の
苦い経験を思い出して、

ボンヤリと 大皿から
わたし達が好きだった、
鳥の唐揚げを
自分の小皿に入れる。

結局
たかがジンクスと笑い、
されどジンクスだった
のかもしれないと、

溜め息をつく。









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