突然ですが、契約結婚しました。
言われて、どきりと胸の奥が震えた。階段を登った後のように、鼓動が駆け足になっていくのがわかる。
心の奥にある罪悪感を、この世に吐き出すことはないと思っていた。だけど。

「会うかどうかは、私が決めることじゃないので」

彼が会いたいと言えば会わざるを得ないし、会いたくないと言えば会わずにいるしかない。
これに関しては、私がどうこう言って決められることじゃない。

「そうか。……すまん、出過ぎたことを言った」
「いえ。お気遣いありがとうございます」

あぁ、と主任の短い返事の後、私達が言葉を交わすことはなかった。
それでも、緊張はいつの間にか解けていて、気付けば深い眠りについていたのだった。


そして、事件は起こる。

「喧嘩して、家、飛び出してきちゃった」

雨が降りしきる中、玄関扉の向こうにはミルクティーカラーの髪を濡らした穂乃果さん。
突然のことに私も玄関まで足を運ぶと、扉を開いた主任もまた、言葉を失っていた。


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