突然ですが、契約結婚しました。
マシュマロみたいな柔らかい声が短く返ってくる。この空気が、大切だった。大好きだった。形はどうであれ、ちゃんと、好きだったんだ。
「ありがとう」
出会ってくれて。私の隣にいてくれて。私を好きでいてくれて。
再会してからもなお、私を導いてくれて。感謝してもしきれないって、今ようやく純な心で思える。
「あの頃、健太くんの隣にいられて幸せだった!」
涙に濡れた目を弓なりにして大きく笑ってみせると、健太くんもまた破顔した。
「俺ね、嬉しかったんだ」
別れ際、彼はマフラーに顔を埋めて徐にそんなことを言った。
「環ちゃんが柳瀬さんの奥さんだって知って、そりゃ驚きはしたけど、それ以上に安心した。あぁ、環ちゃんが寄りかかれる人が見つかったんだって。その人が柳瀬さんなら、俺が言うのもなんだけど、心配ないなって」
「主任……真緒さんって、そんなに健太くんの中で信頼ある存在なの?」
「付き合いはまだ浅いけどね。公私ともに仲良くさせていただけたらと思ってるよ」
健太くんといい主任といい……なんなんだ、この2人は。私の預かり知らぬところで勝手に相思相愛なんですけど。
思わず口元に苦笑いを浮かべた私に、健太くんが真っ直ぐな眼差しを向けた。
「柳瀬さんにだったら、環ちゃんが思ってること、抱えてるもの、全部ぶつけても大丈夫なんじゃないかな」
じゃあ、またね。口元に僅かな笑みを浮かべて、彼は逆方向行きの電車が乗り入れるホームへと階段を下りていく。
その背中を視線だけで追いながら、
「え……?」
ど、どういうこと? 頭の中に大きなハテナが浮かんで、思考を埋め尽くす。
主任、私達の関係を話したの? いやいや、まさか。そんなはずない。だってこれは、私達だけの秘密だったはずだもの。
じゃあ、健太くんは気付いたというの? 契約結婚……まではいかなくても、距離感が普通の夫婦のそれとは異なることに。
「……さすが」
真偽はわからない。彼はもう雑踏の中だ。
気付いていたとしても気付いていなかったとしても、健太くんは私の背中をそっと押してくれた。そのことに変わりはない。
肺いっぱいに深く息を吸い込んで、私もまた、人混みに一歩を踏み出した。
「ありがとう」
出会ってくれて。私の隣にいてくれて。私を好きでいてくれて。
再会してからもなお、私を導いてくれて。感謝してもしきれないって、今ようやく純な心で思える。
「あの頃、健太くんの隣にいられて幸せだった!」
涙に濡れた目を弓なりにして大きく笑ってみせると、健太くんもまた破顔した。
「俺ね、嬉しかったんだ」
別れ際、彼はマフラーに顔を埋めて徐にそんなことを言った。
「環ちゃんが柳瀬さんの奥さんだって知って、そりゃ驚きはしたけど、それ以上に安心した。あぁ、環ちゃんが寄りかかれる人が見つかったんだって。その人が柳瀬さんなら、俺が言うのもなんだけど、心配ないなって」
「主任……真緒さんって、そんなに健太くんの中で信頼ある存在なの?」
「付き合いはまだ浅いけどね。公私ともに仲良くさせていただけたらと思ってるよ」
健太くんといい主任といい……なんなんだ、この2人は。私の預かり知らぬところで勝手に相思相愛なんですけど。
思わず口元に苦笑いを浮かべた私に、健太くんが真っ直ぐな眼差しを向けた。
「柳瀬さんにだったら、環ちゃんが思ってること、抱えてるもの、全部ぶつけても大丈夫なんじゃないかな」
じゃあ、またね。口元に僅かな笑みを浮かべて、彼は逆方向行きの電車が乗り入れるホームへと階段を下りていく。
その背中を視線だけで追いながら、
「え……?」
ど、どういうこと? 頭の中に大きなハテナが浮かんで、思考を埋め尽くす。
主任、私達の関係を話したの? いやいや、まさか。そんなはずない。だってこれは、私達だけの秘密だったはずだもの。
じゃあ、健太くんは気付いたというの? 契約結婚……まではいかなくても、距離感が普通の夫婦のそれとは異なることに。
「……さすが」
真偽はわからない。彼はもう雑踏の中だ。
気付いていたとしても気付いていなかったとしても、健太くんは私の背中をそっと押してくれた。そのことに変わりはない。
肺いっぱいに深く息を吸い込んで、私もまた、人混みに一歩を踏み出した。