突然ですが、契約結婚しました。
主任が聞く姿勢に入ったのを皮切りに、私は最近身に起こった出来事を話し始めた。

ここ数ヶ月、気が向いた時に会う男性がいたこと。都合が合えば会うくらいで、その人のことを好きというわけではなかったこと。その不確定な関係が楽だったこと。
それでも、相手にとってそうではなかったこと。

つい数時間前に身に降りかかった出来事を含め、彼に係る全てのことを話した。

自業自得だ、なんて言われてもおかしくない内容だったけど、主任は一言もそんなこと言わなかった。
ただ静かに、私が言葉を切るまで聞いていてくれた。

「まぁもう会うことはないと思うけど、万が一嘘だってバレたら、ほんとにまずいような気がするんですよねー」
「……確かに。タチ悪そうやもんな、そいつ」
「ですよねぇ。なーんであんな嘘吐いちゃったんだろ。結婚なんて、自分には縁のないことのはずなのに」

ほんとに驚いたの。なんであんなワードが飛び出したのか、今でもわからない。

「結婚とか、縁遠いよな。俺も今日、改めて思った」
「主任も?」
「あぁ。かっこ悪いけど……結婚したいと思うくらい、あいつを超えて好きになれる女に出会える気がせんくて」
「…………」
「けどさ、やっぱ30超えると周りからの圧ってあるやん。この前、支店長にも言われたし」
「えぇ……」

大変だな、デキる営業マンは。
偉い人に顔と名前をしっかり覚えられて、世間話のテンションでそんなこと聞かれるんだろーな。
うわ、それってすごくめんどくさい。

「ほっといてほしいのに、周りはほっといてくれないですよねー。幸い私は親に言われたりとかはないけど、学生時代とかの友達は興味津々で」
「そうそう。こっちの事情話せるわけもないし、上手いことやり過ごすのにも疲れたし」
「わかります〜。適齢期をやり過ごすのに、あとどれくらい我慢すればいいんですかねぇ」

うんうんと隣で主任が頷いている。
好きなヒトの結婚に、こんな煩わしい話題まで。大変だな、主任も。ストレスでハゲ出来ちゃったりしない?

「はは、俺たちどっちも、願望なんか皆無やのに結婚ってワードに悩まされてるんやな」
「あはは、ヘンですよね」
「ほんまにな。この前電話で親に言われた時、イマジナリー嫁が欲しいって本気で思ったし」
「イマジナリー! 主任もそんなこと考えるんですね」
「あれだけ言われたら考えたくもなる」

参った顔。嫌いとか苦手とか、そういう雰囲気じゃないけど、よっぽど嫌なんだろうなぁ。
でも、そうだよな。主任にとってその話題は、傷口に塩を塗られるようなものだよなぁ。
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