突然ですが、契約結婚しました。
お義父さんとお義母さんが感心したように声を上げた。
上手いわ、我ながら。私、営業やっててよかったかも。

「公私共に尊敬できる真緒さんと、そんな風に真緒さんを育ててくださったお2人と、家族になれたことが嬉しいです。不束者ですが、これからよろしくお願いいたします」

ぺこっと頭を下げる。お義父さんもお義母さんも、それ以上は何も言わなかった。


「期待以上だった。ありがとな」

そんな謝辞をもらったのは、新大阪駅から東京方面へと向かう新幹線の中。お義父さんの運転で連れて行ってもらった鉄板焼きのお店で、たらふくご馳走になったお腹を落ち着かせている最中のことだった。

「問題なかったですか?」
「あぁ。帰りがけ、いい人をもらったなって言われたよ」
「よかった。ミッションクリアですね」

イシシ、とイタズラに笑ってみせると、隣に座る主任の口元も緩んだ。

主任のことは大嫌いだけど、夫婦としては上手くやっていけるかもしれない。必要以上に干渉せず、こんなふうに壁が立ちはだかった時は阿吽の呼吸で協力し合えばいい。
愛なんてない関係だけど、パートナーとしては面倒なく過ごしていける。
不確かだった自信に、少しだけ根拠が肉付けされたような気がした。


< 29 / 153 >

この作品をシェア

pagetop