突然ですが、契約結婚しました。
優しいんだかズルいんだか、よくわからない人だなー。

「せっかくなんで、これでウイスキーとか飲みたいです」
「お前、見た目によらずザルだよな」
「主任こそ、見た目以上の酒豪ですよね」
「どういう意味だそれは」

クッと喉を鳴らす姿が、あの夜と不意に重なる。仕事みたいに気を張っていないと、私の前でもこんな少年みたいな顔するんですねぇ。

「早く片付け終わらせて、酒でも買いに行くか」
「わぁい。主任の奢りですか?」
「調子に乗るな」

苦笑いを浮かべた主任に、おでこを軽く小突かれた。ちぇっ。

「リビングでテレビ見ながらお酒飲んだりは、ありですか?」
「ありだな。リビングは共用部だ」
「そうですね。自由に使いましょう」

主任の部屋へは、リビングを通ってからじゃないと辿り着けない。だからどうかなぁって思ったんだけど……こう言ってくれてるから、いっか。言質はとったわけですから。
さっさと仕事片付けて、平日だってお酒飲んでやるぞー!


……なーんて意気込んでいたわけですが。

「小澤、終わりそうか」
「……今日もオシリは終電です」
「そうか。俺もだ」

引っ越しの片付けが落ち着いたのを見計ったように、仕事が急激に忙しくなった。主任が数年前からプッシュをかけ続けていた病院から、大型案件が舞い込んだのだ。
この案件で忙しいのは私達だけではないけれど、それでも仕事を引っ張ってきた主任の比重は大きい。私は、主任の普段の業務を請け負いつつ、手が空いた時は補佐に回っている。んだけど……。

「夜食買ってきましょうか?」
「いい、俺が行く。悪いが、小澤は急ぎ見積もり上げてくれ」
「かしこまりました」

終わらない。やってもやっても、終わる気配がしない! それに……。

「あ、そうだ。さっき出してくれた見積もり、粗利もう少しだけ上げてくれ」

な……なんですと?
振り向きざまに、なんちゅー爆弾を落としていくんですか。爆弾犯は買い出しに出ちゃってもういないしさ。

「まぁでも……一番大変なのは主任か」

土台のないところにイチから作り上げていく。その重圧は、私には推し量ることもできない。
恨めしいのは、鬼の目にも何とやら……なんてタチではないことだけど。

「……頑張りますかぁ」

ここで応えられなくては、カバーできなくては、今まであの鬼に喰らい付いてきた意味がない。
オフィスチェアの背に凭れ、ぐうっと背伸びしてから、私は再び作業に戻った。


「つ、疲れた……!」

家に帰り着いたのは、午前1時をすぐそこに迎えた頃。
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