突然ですが、契約結婚しました。
元から抱えている債権が大きい主任が、この案件にかかりっきりになってしまったから仕方のないことではあるんだけど。
「たくさんご尽力いただき、ありがとうございました」
お酒が進んできたタイミングで、離れたところに座っていた主任が移動してきた。用があるのは私ではない。
「今回の案件で、益々佐々木さんには頭が上がらなくなりました」
私の左隣に座る女性の名前を口にし、主任は空いていた彼女の隣に腰を下ろした。
「またまたぁ。すーぐ調子のいいこと言うんだからー」
佐々木さんと言うのは主任よりも3つ上の事務職の先輩で、以前は営業としてバリバリ働いていたらしい。私が入社した時にはもう事務職に移っていたけれど、主任が入社した時はまだ営業職だったそうな。
「本心です。佐々木さんのフォローなかったら、今頃どうなってたか」
「あははっ。そんなことないと思うけど、ひとまずうちの営業所のエースからの言葉はありがたく受け取っておくわね。ありがとう」
ケタケタと笑いながら、佐々木さんのお酒が進む。顔に出るタイプの人なので、その頬はほんのり紅い。
「大型案件は喜ばしいことだけど、新婚さんなのにいきなり残業続きで大変だったね。新婚生活、ろくに堪能できていないでしょう」
突如投げかけられた気遣いの言葉に、一瞬表情が固まってしまった。も、束の間、すぐに打ち返す構えを整える。
「なかなかゆっくりする時間はないですが、今までもこんな感じだったので。これはこれで私達らしいかなぁって」
「あら、そうなの?」
「当たり前に同じ家に帰るってだけで、結婚したんだなーって実感しますし。ね、主任?」
イタズラ心が働いてパスを投げた先で、主任は朗らかな笑みを浮かべていた。思いがけない表情に、内心ぎょっとする。
「そうだな。俺も、色んな場面で本当に結婚したんだなって感じるというか」
「へぇ、柳瀬くんも。どんな場面で感じるの?」
「んー、そうですね。家で一緒にご飯食べてる時とか、会社から一緒に帰る時とか。後は……」
「後は?」
「持ち帰るなって言った仕事を俺に隠して持ち帰って、それをリビングでして寝落ちしてる姿を見た時とか。一緒に住んでなかったらうまく隠されてたと思います」
「な……っ」
イタズラに投げたボールが、豪速球になって跳ね返ってきた。その居心地悪さに、身動ぎする他ない。ニヤニヤする佐々木さんの向こうに座る主任を覗き込むと、彼もまたニヤニヤ顔でグラスを呷っている。くっそぅ、さっきの不気味な笑みはこれを見越してのカオか。
「たくさんご尽力いただき、ありがとうございました」
お酒が進んできたタイミングで、離れたところに座っていた主任が移動してきた。用があるのは私ではない。
「今回の案件で、益々佐々木さんには頭が上がらなくなりました」
私の左隣に座る女性の名前を口にし、主任は空いていた彼女の隣に腰を下ろした。
「またまたぁ。すーぐ調子のいいこと言うんだからー」
佐々木さんと言うのは主任よりも3つ上の事務職の先輩で、以前は営業としてバリバリ働いていたらしい。私が入社した時にはもう事務職に移っていたけれど、主任が入社した時はまだ営業職だったそうな。
「本心です。佐々木さんのフォローなかったら、今頃どうなってたか」
「あははっ。そんなことないと思うけど、ひとまずうちの営業所のエースからの言葉はありがたく受け取っておくわね。ありがとう」
ケタケタと笑いながら、佐々木さんのお酒が進む。顔に出るタイプの人なので、その頬はほんのり紅い。
「大型案件は喜ばしいことだけど、新婚さんなのにいきなり残業続きで大変だったね。新婚生活、ろくに堪能できていないでしょう」
突如投げかけられた気遣いの言葉に、一瞬表情が固まってしまった。も、束の間、すぐに打ち返す構えを整える。
「なかなかゆっくりする時間はないですが、今までもこんな感じだったので。これはこれで私達らしいかなぁって」
「あら、そうなの?」
「当たり前に同じ家に帰るってだけで、結婚したんだなーって実感しますし。ね、主任?」
イタズラ心が働いてパスを投げた先で、主任は朗らかな笑みを浮かべていた。思いがけない表情に、内心ぎょっとする。
「そうだな。俺も、色んな場面で本当に結婚したんだなって感じるというか」
「へぇ、柳瀬くんも。どんな場面で感じるの?」
「んー、そうですね。家で一緒にご飯食べてる時とか、会社から一緒に帰る時とか。後は……」
「後は?」
「持ち帰るなって言った仕事を俺に隠して持ち帰って、それをリビングでして寝落ちしてる姿を見た時とか。一緒に住んでなかったらうまく隠されてたと思います」
「な……っ」
イタズラに投げたボールが、豪速球になって跳ね返ってきた。その居心地悪さに、身動ぎする他ない。ニヤニヤする佐々木さんの向こうに座る主任を覗き込むと、彼もまたニヤニヤ顔でグラスを呷っている。くっそぅ、さっきの不気味な笑みはこれを見越してのカオか。