突然ですが、契約結婚しました。
「タマちゃん、久しぶり。なかなか連絡くれなかったじゃん」
「ごめんごめん、ちょっと忙しくてさ。タツくんが電話に出てくれてよかったよ」
「そりゃ、タマちゃんからの連絡ずっと待ってたからね」
「嘘ばっかり」
クスクス笑ってバーチェアに腰掛けながら、カウンターの向こうのバーテンダーにマティーニを注文する。
程よく薄暗いムーディーな雰囲気の中、隣に座る彼は、ロックグラスに入ったウイスキーを静かに傾けていた。
「お待たせしました、マティーニです」
コースターと共に、マティーニグラスがテーブルに置かれる。それから、どちらからともなくグラスを軽く合わせた。
アルコールで喉を潤して、ふと考える。
えぇと。この人との共通の話題ってなんだっけ?
家から駅に向かう道すがら、友達リストの中から適当に選んで電話をかけた。色んな記憶が混在して、この人の情報がなかなか出てこない。
「タツくんは最近どうしてたの?」
「俺? 毎日タマちゃんのこと考えてたよ」
「もう。そういうのじゃなくて」
会話するだけの情報をちょうだい、情報を!
そう思いつつ、ワントーン高い声で、ぱしっと彼の肩をはたく。
歳は……私より上だったよね、確か。仕事は? 旅行代理店……はマサだったはずだし、IT関係でもなかったはず。
「明日は仕事?」
「ん、休みだよ」
「よかった。休みなら、遅くなっても大丈夫だよね」
不敵な微笑みと共に、すっと縮められた距離。
近くなった肩の向こうに、見え隠れするココロ。
私の明日の予定は無視かーい。と内心では思いつつ。
「楽しませてくれるのよね?」
「もちろん」
「だったらいいよ」
この男の近況とか情報とか、別にどうだっていっか。
所詮ギブアンドテイクの関係性。お互いに“イマ”が楽しけりゃいいんだもん。
お互い本気にならないからちょうどいい。
交わす言葉の全て、嘘かホントかわからないから都合がいい。
彼氏が欲しいわけではないし、結婚願望なんてものは微塵もないので、結局私には、このテキトーな恋愛ごっこが向いているんだと思う。
……思っていた、んだけど。
「そろそろ付き合わない?」
タツくんと遊んだ翌日。土曜日のハイボールバーはそれなりに混雑していた。
立ち飲み席でグラスを突き合わせてしばらくした頃、思いがけない言葉が鼓膜を振るわせた。
「……今、なんて?」
「だからー。そろそろちゃんと付き合おうよ」
「誰と誰が?」
「俺とタマちゃん」
私と自分を交互に指差して、どこか自信ありげな表情を浮かべているのは、ここ数ヶ月、定期的に会っていた男だ。
出会いはどこだったっけ。
「ごめんごめん、ちょっと忙しくてさ。タツくんが電話に出てくれてよかったよ」
「そりゃ、タマちゃんからの連絡ずっと待ってたからね」
「嘘ばっかり」
クスクス笑ってバーチェアに腰掛けながら、カウンターの向こうのバーテンダーにマティーニを注文する。
程よく薄暗いムーディーな雰囲気の中、隣に座る彼は、ロックグラスに入ったウイスキーを静かに傾けていた。
「お待たせしました、マティーニです」
コースターと共に、マティーニグラスがテーブルに置かれる。それから、どちらからともなくグラスを軽く合わせた。
アルコールで喉を潤して、ふと考える。
えぇと。この人との共通の話題ってなんだっけ?
家から駅に向かう道すがら、友達リストの中から適当に選んで電話をかけた。色んな記憶が混在して、この人の情報がなかなか出てこない。
「タツくんは最近どうしてたの?」
「俺? 毎日タマちゃんのこと考えてたよ」
「もう。そういうのじゃなくて」
会話するだけの情報をちょうだい、情報を!
そう思いつつ、ワントーン高い声で、ぱしっと彼の肩をはたく。
歳は……私より上だったよね、確か。仕事は? 旅行代理店……はマサだったはずだし、IT関係でもなかったはず。
「明日は仕事?」
「ん、休みだよ」
「よかった。休みなら、遅くなっても大丈夫だよね」
不敵な微笑みと共に、すっと縮められた距離。
近くなった肩の向こうに、見え隠れするココロ。
私の明日の予定は無視かーい。と内心では思いつつ。
「楽しませてくれるのよね?」
「もちろん」
「だったらいいよ」
この男の近況とか情報とか、別にどうだっていっか。
所詮ギブアンドテイクの関係性。お互いに“イマ”が楽しけりゃいいんだもん。
お互い本気にならないからちょうどいい。
交わす言葉の全て、嘘かホントかわからないから都合がいい。
彼氏が欲しいわけではないし、結婚願望なんてものは微塵もないので、結局私には、このテキトーな恋愛ごっこが向いているんだと思う。
……思っていた、んだけど。
「そろそろ付き合わない?」
タツくんと遊んだ翌日。土曜日のハイボールバーはそれなりに混雑していた。
立ち飲み席でグラスを突き合わせてしばらくした頃、思いがけない言葉が鼓膜を振るわせた。
「……今、なんて?」
「だからー。そろそろちゃんと付き合おうよ」
「誰と誰が?」
「俺とタマちゃん」
私と自分を交互に指差して、どこか自信ありげな表情を浮かべているのは、ここ数ヶ月、定期的に会っていた男だ。
出会いはどこだったっけ。