突然ですが、契約結婚しました。
「私、今回こうやってチケットを貰うことがなければ、出雲大社に来ることなんてなかったと思います」
「同感だ」

車で来た道を戻りつつ、主任と何の気なしに言葉を交わす。
空港から……ううん、旅行が決まって下調べをしていた時から感じていた。ご縁の国と銘打つだけあって、縁結び関連の多いこと!
願う縁もない私は、今回みたいな機会がないと来ることもなかっただろう。慰安旅行というパッケージがあっても、主任と訪れるには些か不向きな気もするけれど……メインは温泉だもんね! 日々の疲れを温泉で癒す、これは共通して喜ばしいことのはず!

「お、ここか」

出雲大社を背に大通りをしばらく歩くと、先ほど車窓から確認したお店に辿り着いた。出雲そばのお店……の2階にある、海鮮丼のお店!

「結構並んでますね」
「昼飯時だからな」
「並ぶの、大丈夫ですか? 何なら他のお店でも」
「……いらん気は回さんでいい。来たかったんだろ、ここ」

私のお伺いを振り切って、ウェイティングボードに名前を書きに行く主任。前には、数組の名前が既に並んでいる。
そこに新たに追加された【ヤナセ】の文字に、違和感はなかった。


「はぁ、美味しかったぁ」

重くなったお腹を抱えてお店を出る。注文したのどぐろ丼の美味しいこと!
はぁ、足を伸ばしてわざわざ来た甲斐がありましたわ。

「美味かったな。時間もいい頃合いか」
「ですねぇ」

パーキングまでの道を並んで歩く。正面に見えるのは、厳かに構える大きな鳥居。後ろに茂る木々達が、より一層厳格な雰囲気を漂わせているような気がする。

「せっかく来たことですし、寄って行きません? 出雲大社」
「……驚いた。参拝とか、興味ないのかと思ってたぞ」
「特に神様に願いたいこととかはないですけど。私も日本人ですから、神社仏閣があればお詣りしようかなとは思いますし……何より、すぐそこにこんな大きな観光名所があってスルーするのはどうかなと」

主任が嫌なら別にいいですけど、と付け加えると主任は首を横に小さく振った。

「同感だ。俺も、行かないかって提案しようとしてたところだ」

薄い唇が微かに持ち上げられる。それが素の笑みだということは容易に理解できた。同時に、私の口元も緩んでいることに気付く。こういう思考は一致するのだ。それは、仕事を通じて培ってきた価値観なんだろうか。

「じゃ、行きましょうか。腹ごなしして、帰りに正面のお店でお餅買いたいです」
「国宝や文化財への参拝を腹ごなしに利用するな!」
「冗談ですよぅ。でも、ほんとに美味しいらしいですよ、ぜんざい餅。家にも買って帰りましょうよ」
「……はぁ。好きなだけ買え」
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