突然ですが、契約結婚しました。
私達が結婚したことで、営業内ではエリアの再編成の話が挙がっている。現場の人との関係性ありきだから、一朝一夕で引き継ぎが出来る仕事ではないんだけど、徐々に新しい担当に引き継ぎをしていく方針だ。
結婚の報告を所長にした時から、ゆくゆくはという話だったんだけど、繁忙期の兼ね合いなんかで今このタイミングでの周知になったんだって。
どっちが動くかはまだ決まっていないけど、近いうち、確実に私達は仕事のパートナーではなくなるのだ。
「今まではどうやって躱してきてたんですか? 連絡先聞かれたりすること、少なくなかったでしょう?」
「んー……まぁ。適当に躱して……それでも躱しきれない時は、彼女いるって言ってたな」
「あぁ、なるほど。魔法の言葉ですよね、“カノジョ”」
「これからは“ツマ”が使える。最強のカードだろ」
「ドヤ顔で言ってますけど、そのカード私ですからね?」
頬を薄紅色に染めた主任が楽しそうに喉を鳴らす。釣られて私も笑ってしまう。お酒が進む。あぁ、楽しい、かも。
主任も、少しはそう思ってくれてたらいいなぁ……。
「へぇ、やっぱりタイガさんってモテるんだぁ」
「あいつはソツがないからな。家近くてゼミまで同じやったからしょっちゅう一緒におったけど、校内でどこ行っても知り合いに遭遇するし、声かけられてた」
「あー、想像つくかも」
「やろ? ほんで、俺がよく一緒におるやつとして認識される」
お酒が進むにつれて、いつしか主任の口調は関西弁になっていた。私に対して関西弁で話すのは、あの夜以降初めてだった。
「でも、タイガさん言ってましたよ? 主任の方がいい男だーって」
「うげ。なんちゅーキモチワルイ会話してんねん!」
「そんな心底嫌みたいな顔しないでくださいよ」
「……俺は素直やからな」
「嘘ばっかり!」
素直とは真逆のところにいる人でしょうに。私のツッコミに、惚けた顔をしてもだめです。バレてます。
っていうか、タイガさんがモテたのは事実だろうけど、主任も相当人気があったはず。タイガさんとよく一緒にいる人じゃなくて、ちゃんと“柳瀬真緒”として認識されてただろうなぁ。こんなキャラだから、みんな遠巻きに見てたのかもしれないけれど。
「……あの。純粋な疑問なんで、気を悪くしないでほしいんですけど」
「ん?」
「主任って、昔から穂乃果さんのことが好きだったわけじゃないですか」
「……うん」
「誰かと付き合ったりすることもなかったんですか?」
結婚の報告を所長にした時から、ゆくゆくはという話だったんだけど、繁忙期の兼ね合いなんかで今このタイミングでの周知になったんだって。
どっちが動くかはまだ決まっていないけど、近いうち、確実に私達は仕事のパートナーではなくなるのだ。
「今まではどうやって躱してきてたんですか? 連絡先聞かれたりすること、少なくなかったでしょう?」
「んー……まぁ。適当に躱して……それでも躱しきれない時は、彼女いるって言ってたな」
「あぁ、なるほど。魔法の言葉ですよね、“カノジョ”」
「これからは“ツマ”が使える。最強のカードだろ」
「ドヤ顔で言ってますけど、そのカード私ですからね?」
頬を薄紅色に染めた主任が楽しそうに喉を鳴らす。釣られて私も笑ってしまう。お酒が進む。あぁ、楽しい、かも。
主任も、少しはそう思ってくれてたらいいなぁ……。
「へぇ、やっぱりタイガさんってモテるんだぁ」
「あいつはソツがないからな。家近くてゼミまで同じやったからしょっちゅう一緒におったけど、校内でどこ行っても知り合いに遭遇するし、声かけられてた」
「あー、想像つくかも」
「やろ? ほんで、俺がよく一緒におるやつとして認識される」
お酒が進むにつれて、いつしか主任の口調は関西弁になっていた。私に対して関西弁で話すのは、あの夜以降初めてだった。
「でも、タイガさん言ってましたよ? 主任の方がいい男だーって」
「うげ。なんちゅーキモチワルイ会話してんねん!」
「そんな心底嫌みたいな顔しないでくださいよ」
「……俺は素直やからな」
「嘘ばっかり!」
素直とは真逆のところにいる人でしょうに。私のツッコミに、惚けた顔をしてもだめです。バレてます。
っていうか、タイガさんがモテたのは事実だろうけど、主任も相当人気があったはず。タイガさんとよく一緒にいる人じゃなくて、ちゃんと“柳瀬真緒”として認識されてただろうなぁ。こんなキャラだから、みんな遠巻きに見てたのかもしれないけれど。
「……あの。純粋な疑問なんで、気を悪くしないでほしいんですけど」
「ん?」
「主任って、昔から穂乃果さんのことが好きだったわけじゃないですか」
「……うん」
「誰かと付き合ったりすることもなかったんですか?」