突然ですが、契約結婚しました。
混じり気もなく問うと、少しだけ面食らったような表情を見せてから主任が笑った。
「俺は修行僧か何かか」
「……可能性は0じゃないじゃないですか」
「まぁなぁ。けど、さすがにあるよ。期待に応えられんで申し訳ない」
「別に期待してませんけども」
べ、と舌を出して見せると主任がまた喉を鳴らす。まるであの日の夜みたいに、表情がコロコロ変わる。
「彼女がおった時、必ずしもあいつに彼氏がおったわけじゃないけどな」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。あいつが誰とも付き合ってなくて、俺に彼女がおった時も、どっちもフリーの時もあった」
そう……そうなんだ。意外だった。告げられない理由があったのかと思ってた。
でも、だったら。
「……そのタイミングで、穂乃果さんに想いを伝えることはなかったんですか?」
思わず聞くと、主任の長いまつ毛が切なげに伏せられた。頬に影が落ちる。
「あいつとはほんまにずっと一緒におって、俺は近所の仲良い兄ちゃんで。ガキの頃の『お嫁さんにして』なんて願いを本気にして、自覚した頃には今更告白なんか出来んかった」
「……っ」
「よく幼なじみの恋愛モノの映画とかドラマあるけどさ、そんな上手くいかんわ! てずっと思ってたもんな。近すぎてどうにもならん。俺にとっては、一番厄介な関係やったよ」
忌々しさと愛おしさが混じる顔で、彼は目を細めた。この顔をさせられるのは、後にも先にも穂乃果さんただ1人だけなんだろう。
「まぁ、俺があいつに告白出来んかったんはそんな感じ。ただのヘタレやわ」
「そんなこと……」
「そんなヘタレを好いてくれる子もおったから、断ってみたり付き合ってみたり。ほとんど長続きはせんかったけど」
そりゃそうだよね。付き合ってる間も、他の人のことが好きだったんだもん。長続きするはずがない。
……っていうか、今の言い方。この人一体、どれだけ告白されてるんだ。
「とはいえ、ここ数年は仕事ばっかりでまともに付き合ったりとかはなかったけどな」
「この歳で付き合ったりすると、結婚も視野に入れないといけないですからねぇ」
「そうやねん。結婚するつもりもないのに、結婚したい子と付き合うのは申し訳ないし。俺にとっても、プレッシャー感じながら好きじゃない子と付き合うのはしんどいし」
「言ってること最低ですけど、尤もですね。最低ですけど」
「2回も言うなよ。色恋に向いてない自覚はある」
逆を返せば、他の人と付き合っても、主任の心は変わらなかったということだ。他の人と付き合うことで、彼女への想いが昇華されることを望まなかったわけではないだろう。
「俺は修行僧か何かか」
「……可能性は0じゃないじゃないですか」
「まぁなぁ。けど、さすがにあるよ。期待に応えられんで申し訳ない」
「別に期待してませんけども」
べ、と舌を出して見せると主任がまた喉を鳴らす。まるであの日の夜みたいに、表情がコロコロ変わる。
「彼女がおった時、必ずしもあいつに彼氏がおったわけじゃないけどな」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。あいつが誰とも付き合ってなくて、俺に彼女がおった時も、どっちもフリーの時もあった」
そう……そうなんだ。意外だった。告げられない理由があったのかと思ってた。
でも、だったら。
「……そのタイミングで、穂乃果さんに想いを伝えることはなかったんですか?」
思わず聞くと、主任の長いまつ毛が切なげに伏せられた。頬に影が落ちる。
「あいつとはほんまにずっと一緒におって、俺は近所の仲良い兄ちゃんで。ガキの頃の『お嫁さんにして』なんて願いを本気にして、自覚した頃には今更告白なんか出来んかった」
「……っ」
「よく幼なじみの恋愛モノの映画とかドラマあるけどさ、そんな上手くいかんわ! てずっと思ってたもんな。近すぎてどうにもならん。俺にとっては、一番厄介な関係やったよ」
忌々しさと愛おしさが混じる顔で、彼は目を細めた。この顔をさせられるのは、後にも先にも穂乃果さんただ1人だけなんだろう。
「まぁ、俺があいつに告白出来んかったんはそんな感じ。ただのヘタレやわ」
「そんなこと……」
「そんなヘタレを好いてくれる子もおったから、断ってみたり付き合ってみたり。ほとんど長続きはせんかったけど」
そりゃそうだよね。付き合ってる間も、他の人のことが好きだったんだもん。長続きするはずがない。
……っていうか、今の言い方。この人一体、どれだけ告白されてるんだ。
「とはいえ、ここ数年は仕事ばっかりでまともに付き合ったりとかはなかったけどな」
「この歳で付き合ったりすると、結婚も視野に入れないといけないですからねぇ」
「そうやねん。結婚するつもりもないのに、結婚したい子と付き合うのは申し訳ないし。俺にとっても、プレッシャー感じながら好きじゃない子と付き合うのはしんどいし」
「言ってること最低ですけど、尤もですね。最低ですけど」
「2回も言うなよ。色恋に向いてない自覚はある」
逆を返せば、他の人と付き合っても、主任の心は変わらなかったということだ。他の人と付き合うことで、彼女への想いが昇華されることを望まなかったわけではないだろう。