突然ですが、契約結婚しました。
今までの生き方を自分自身で全否定したあの夜、私の新しい生き方を見出したのは他でもない。
「そういう主任こそ、どうなんです? 私と結婚したこと、後悔してるんじゃないですか?」
「なに……?」
「ただの部下を奥さんだって好きな人に紹介する羽目になって、いい気持ちはしなかったでしょう。それに……今後主任が他の誰かを好きになったとしても、私とのことはなかったことにはなりません」
この先、主任がどういう生き方を選んだとしても、私との関係は経歴として残るのだ。
私の憂いを聞いて、主任の真剣な目が鋭さを増した。
「こっちこそ、みくびってくれるな。この結婚を後悔したことなんか、1回もない」
その声は力強く。疑う気持ちすら湧き上がらない。
大嫌いだった。その頃から、この人の芯の強さは変わらなかった。それに、と言葉は続く。
「俺は、あの日バーで会ったんが……結婚したんが、小澤でよかったと思ってるよ」
思いがけない言葉と共に隣から腕が伸びてきて、頭に軽い衝撃を感じた。振り向くと、主任は穏やかに微笑んでいる。
知らなかった。こんなふうに優しく笑うこと。乗せられた掌の温もりも。全部、あの日あのタイミングで会っていなければ、知ることなんてなかったよ。
「私も……主任でよかったって、思ってます」
僅かに開いた窓から涼しい風が吹き込む。お酒に熱る頬を少しだけ冷やしてくれる。秋の夜は、私が知っていたよりもずっと長い。
どうか、隣に立つこの人が幸せでありますように。
昼間に願った縁結びの神様は、私の望みを叶えてくれるだろうか。
旅行2日目は、チェックアウト時間ギリギリまで宿を満喫した。部屋に着いた露天風呂もとっても気持ちよくて、いい贅沢をさせてもらいましたわ。
「いやぁ、楽しかったですねぇ」
「久々にこんなにゆっくりさせてもらったよ」
「譲ってくださった善さんとタイガさんに感謝ですね」
だな、と主任が相槌を打つ。夜が明け、主任の関西弁はすっかり封印されてしまった。
「呼ばれたな。行ってくる」
「お願いします」
空港近くのレンタカー屋さんで、カウンターに返却の手続きに行く主任の背中を見送る。カウンター近くの椅子に座る女の子数人が、主任に気付き視線を奪われていた。さすがですこと。
「…………」
手持ち無沙汰に、伸ばした足先に視線を落として荷物番。あぁ、でもほんと、楽しかったな。
「そういう主任こそ、どうなんです? 私と結婚したこと、後悔してるんじゃないですか?」
「なに……?」
「ただの部下を奥さんだって好きな人に紹介する羽目になって、いい気持ちはしなかったでしょう。それに……今後主任が他の誰かを好きになったとしても、私とのことはなかったことにはなりません」
この先、主任がどういう生き方を選んだとしても、私との関係は経歴として残るのだ。
私の憂いを聞いて、主任の真剣な目が鋭さを増した。
「こっちこそ、みくびってくれるな。この結婚を後悔したことなんか、1回もない」
その声は力強く。疑う気持ちすら湧き上がらない。
大嫌いだった。その頃から、この人の芯の強さは変わらなかった。それに、と言葉は続く。
「俺は、あの日バーで会ったんが……結婚したんが、小澤でよかったと思ってるよ」
思いがけない言葉と共に隣から腕が伸びてきて、頭に軽い衝撃を感じた。振り向くと、主任は穏やかに微笑んでいる。
知らなかった。こんなふうに優しく笑うこと。乗せられた掌の温もりも。全部、あの日あのタイミングで会っていなければ、知ることなんてなかったよ。
「私も……主任でよかったって、思ってます」
僅かに開いた窓から涼しい風が吹き込む。お酒に熱る頬を少しだけ冷やしてくれる。秋の夜は、私が知っていたよりもずっと長い。
どうか、隣に立つこの人が幸せでありますように。
昼間に願った縁結びの神様は、私の望みを叶えてくれるだろうか。
旅行2日目は、チェックアウト時間ギリギリまで宿を満喫した。部屋に着いた露天風呂もとっても気持ちよくて、いい贅沢をさせてもらいましたわ。
「いやぁ、楽しかったですねぇ」
「久々にこんなにゆっくりさせてもらったよ」
「譲ってくださった善さんとタイガさんに感謝ですね」
だな、と主任が相槌を打つ。夜が明け、主任の関西弁はすっかり封印されてしまった。
「呼ばれたな。行ってくる」
「お願いします」
空港近くのレンタカー屋さんで、カウンターに返却の手続きに行く主任の背中を見送る。カウンター近くの椅子に座る女の子数人が、主任に気付き視線を奪われていた。さすがですこと。
「…………」
手持ち無沙汰に、伸ばした足先に視線を落として荷物番。あぁ、でもほんと、楽しかったな。