突然ですが、契約結婚しました。
彼の言う通り。社会人2年目、3年目になってからというもの、SNSでは入籍報告がちらほら見受けられるようになった。
高校を出てすぐに就職したり、短大や専門学校を出たりしてひと足先に社会人になった子だけでなく、同じく4年制の大学を卒業した子のアカウントからもだ。
他人事だった4文字が、すぐそこまで迫り来ているような感覚があったのは確かだ。だけどそれでも、私にとっては現実味のない話。はずだった。
『学生時代、一緒にバカなことしてた友達がビシッとキメて前に立ってんの。不思議な気分になるけど、みんなすごい幸せそうで。あぁよかったなって、俺も嬉しくなるんだ』
『仲、良いんだね』
『卒業しても結構会ってるからね』
確かに、彼の話にはよく友達の名前が挙がった。先輩後輩関係なく、人の懐に入り込むのが上手い人だった。
『俺が逆の立場になる日が来たら、今度はみんなに祝ってもらえるんだなーって。今すぐにとは言わないけど、そんな日が来たら幸せだろうなぁ』
真っ直ぐな彼の言葉は、私の心を凍りつかせた。純で無垢な瞳。誰よりも真っ直ぐなこの人を……私は、彼が見た友人達と同じように、幸せに出来るの?
考えた瞬間、背中に冷たい汗が走った。──無理だ。
私は知らない。幸せな家族の在り方を。そこに至るまでの過程を。
みんなに祝福されるカップル。その真ん中に自分がいる。そんなイメージが、少しも浮かばない。
例えばこの先ずっと一緒に歩いていく道を選んだとして、彼はきっと、今以上に私のことを大切にしてくれるだろう。……だけど、私は?
隣にいるのは心地よくて楽だ。私も彼を大切にしたい。だけど、同じだけの愛情を返せるだけの自信がない。
彼が望む未来を、彼が思い描く普通の幸せを、私はあなたにあげられない。
荷が重い、なんて、そんなこと思っちゃいけないのに──。
『ごめん、別れてほしい』
別れは一方的に告げた。彼は私を怒るでも詰るでもなく、ただ真っ直ぐに私の目を見据えていた。いっそ問い詰めて罵倒してくれた方が楽だった、なんて言う資格は私にはない。
『健太くんは何も悪くない。全部私が悪いの。だけど、もうこれ以上一緒にはいられない』
幸せになって。今度は、私みたいな女に引っかからないで。
手を離して、遠くから幸せを願うことでしか、あなたを大切に出来ないような女でごめんね。
『こんなこと、私が言う資格なんてないのかもしれないけど……どうか、元気で』
最後の瞬間まで凛としていた彼の姿は、今も鮮明に瞼に焼き付いている。
「……どうした?」
頭上から声がかかって弾かれたように顔を上げると、食卓の向かい側で主任が怪訝そうにこちらを伺っていた。
高校を出てすぐに就職したり、短大や専門学校を出たりしてひと足先に社会人になった子だけでなく、同じく4年制の大学を卒業した子のアカウントからもだ。
他人事だった4文字が、すぐそこまで迫り来ているような感覚があったのは確かだ。だけどそれでも、私にとっては現実味のない話。はずだった。
『学生時代、一緒にバカなことしてた友達がビシッとキメて前に立ってんの。不思議な気分になるけど、みんなすごい幸せそうで。あぁよかったなって、俺も嬉しくなるんだ』
『仲、良いんだね』
『卒業しても結構会ってるからね』
確かに、彼の話にはよく友達の名前が挙がった。先輩後輩関係なく、人の懐に入り込むのが上手い人だった。
『俺が逆の立場になる日が来たら、今度はみんなに祝ってもらえるんだなーって。今すぐにとは言わないけど、そんな日が来たら幸せだろうなぁ』
真っ直ぐな彼の言葉は、私の心を凍りつかせた。純で無垢な瞳。誰よりも真っ直ぐなこの人を……私は、彼が見た友人達と同じように、幸せに出来るの?
考えた瞬間、背中に冷たい汗が走った。──無理だ。
私は知らない。幸せな家族の在り方を。そこに至るまでの過程を。
みんなに祝福されるカップル。その真ん中に自分がいる。そんなイメージが、少しも浮かばない。
例えばこの先ずっと一緒に歩いていく道を選んだとして、彼はきっと、今以上に私のことを大切にしてくれるだろう。……だけど、私は?
隣にいるのは心地よくて楽だ。私も彼を大切にしたい。だけど、同じだけの愛情を返せるだけの自信がない。
彼が望む未来を、彼が思い描く普通の幸せを、私はあなたにあげられない。
荷が重い、なんて、そんなこと思っちゃいけないのに──。
『ごめん、別れてほしい』
別れは一方的に告げた。彼は私を怒るでも詰るでもなく、ただ真っ直ぐに私の目を見据えていた。いっそ問い詰めて罵倒してくれた方が楽だった、なんて言う資格は私にはない。
『健太くんは何も悪くない。全部私が悪いの。だけど、もうこれ以上一緒にはいられない』
幸せになって。今度は、私みたいな女に引っかからないで。
手を離して、遠くから幸せを願うことでしか、あなたを大切に出来ないような女でごめんね。
『こんなこと、私が言う資格なんてないのかもしれないけど……どうか、元気で』
最後の瞬間まで凛としていた彼の姿は、今も鮮明に瞼に焼き付いている。
「……どうした?」
頭上から声がかかって弾かれたように顔を上げると、食卓の向かい側で主任が怪訝そうにこちらを伺っていた。