突然ですが、契約結婚しました。
今のところ、まだつわりらしきつわりもないとのことなので、遠慮なくドリンクと料理を注文する。
食べられなくなる前に食べてやるんだー! なんて豪語するから、ちゃっかり私も便乗してそれなりの量を頼んだ。
満腹だ妊娠何ヶ月目だと言いながら頼んだティラミスはぺろりと平らげた。お互いのグラスに少しずつドリンクが残る状況で、酔いは程よく回っている。いつもだったら途中から杯数を数えなくなるけれど、今日は覚えている。3杯だ。湯浅はお酒こそ入っていないものの、テンションは横ばいだ。
そういえば、と言っていなかった話を切り出す。
「主任の話なんだけど」
「なになに、聞かせて」
「なんかね、取引先で仲良くなった営業の人がいるらしくて。知り合った時に色々話聞かせてくれたんだけど」
「うんうん」
「どうにもその営業、健太くんみたいなんだよね」
今度は湯浅が黄色いスポンジになった。目をまんまるにして、あぁ、私もさっきこんな顔をしていたんだな。
仕返しが出来たことに少しの満足感を覚えながら、それでもやっぱり仕返しなんてしたくなかった。
「それ……偶然……?」
ようやっと絞り出された声には前面に困惑が入り混じっていた。
「さすがに偶然だとは思う」
「健太くん、主任の会社名でピンと来てたりしないの?」
「わかんない。もしかしたら、あ、とはなったかもしれないけど。まさかたまたま知り合った人が元カノの上司で、現旦那だとは思わないんじゃないかなぁ」
聡い彼のことだ。同じ会社に勤めていることに気付いたとしても、初対面で私のことを口にしたりはしないだろう。
今更、何か思惑があって主任に近付いた……なんてのは以ての外だ。そんなことは絶対にあり得ない。
そう言い切るだけの信頼がある。だからこそ不用意に関わりを持つべきではないと思っていた。それなのに。
「もう昔のことだし、知られたらまずいわけでもないけどさ」
「うーん。でも、主任も、たまたま仲良くなった人が自分の奥さんの元カレだったなんて複雑だろうしねぇ」
湯浅の考えるような心配には及びません、とは言えない。私は恋愛結婚した妻なんだ。
「2人、会ったりする予定はあるの?」
「ご飯行く約束はしたそうだよ」
「いつ?」
「わかんない。怖くて聞いてない」
先に主任に話せばよかった、と思ったのは随分経ってからだった。過去の恋愛の話を、一度だけしたことがある。それが彼だと言えば、主任はすぐに理解してくれたと思う。
食べられなくなる前に食べてやるんだー! なんて豪語するから、ちゃっかり私も便乗してそれなりの量を頼んだ。
満腹だ妊娠何ヶ月目だと言いながら頼んだティラミスはぺろりと平らげた。お互いのグラスに少しずつドリンクが残る状況で、酔いは程よく回っている。いつもだったら途中から杯数を数えなくなるけれど、今日は覚えている。3杯だ。湯浅はお酒こそ入っていないものの、テンションは横ばいだ。
そういえば、と言っていなかった話を切り出す。
「主任の話なんだけど」
「なになに、聞かせて」
「なんかね、取引先で仲良くなった営業の人がいるらしくて。知り合った時に色々話聞かせてくれたんだけど」
「うんうん」
「どうにもその営業、健太くんみたいなんだよね」
今度は湯浅が黄色いスポンジになった。目をまんまるにして、あぁ、私もさっきこんな顔をしていたんだな。
仕返しが出来たことに少しの満足感を覚えながら、それでもやっぱり仕返しなんてしたくなかった。
「それ……偶然……?」
ようやっと絞り出された声には前面に困惑が入り混じっていた。
「さすがに偶然だとは思う」
「健太くん、主任の会社名でピンと来てたりしないの?」
「わかんない。もしかしたら、あ、とはなったかもしれないけど。まさかたまたま知り合った人が元カノの上司で、現旦那だとは思わないんじゃないかなぁ」
聡い彼のことだ。同じ会社に勤めていることに気付いたとしても、初対面で私のことを口にしたりはしないだろう。
今更、何か思惑があって主任に近付いた……なんてのは以ての外だ。そんなことは絶対にあり得ない。
そう言い切るだけの信頼がある。だからこそ不用意に関わりを持つべきではないと思っていた。それなのに。
「もう昔のことだし、知られたらまずいわけでもないけどさ」
「うーん。でも、主任も、たまたま仲良くなった人が自分の奥さんの元カレだったなんて複雑だろうしねぇ」
湯浅の考えるような心配には及びません、とは言えない。私は恋愛結婚した妻なんだ。
「2人、会ったりする予定はあるの?」
「ご飯行く約束はしたそうだよ」
「いつ?」
「わかんない。怖くて聞いてない」
先に主任に話せばよかった、と思ったのは随分経ってからだった。過去の恋愛の話を、一度だけしたことがある。それが彼だと言えば、主任はすぐに理解してくれたと思う。