突然ですが、契約結婚しました。
「いやぁ、買ったなぁ」
「買った」
「買いました」

主任のご実家に帰り着き玄関に荷物を運び入れると、騒々しさに奥から出てきたお義父さん。框に下ろした荷物を見て、感心したように声が漏らされた。
そりゃそうだ。東京から電車で帰省してきた息子夫婦が、ショッピングバッグをいくつも引っ提げて帰ってきたんだもの。

「これ、全部持って帰るんか?」
「まさか。手荷物で持って帰るやつと選別して、東京に送る」

買ったのは主に衣類や日用品。欲しかったもの、気になっていたものがセール価格で売り出されていて、私も主任もついつい財布の紐が緩んでしまった。

「じゃあ、一旦全部そこの和室に入れとき。母さんがカニ鍋準備して待ってる」
「なんかデジャヴやな」
「あはは。楽しみです、カニ」

お義父さんが案内してくれた和室に荷物を運び入れ、リビングの扉を開ける。瞬間、冷えた体を暖かい空気が包み込んだ。それから、お義母さんの笑顔も。

「おかえり、真緒。環ちゃん」
「ただいま戻りました」
「ただいま。腹減った」
「カニ、いっぱい買ったからね。いっぱい食べてな、環ちゃん!」
「おい、俺は」

嫁姑問題とかよく言うけれど、私の義父母は手放しで私のことを可愛がってくれていることが伝わる。だからこそ、賑やかな空気の中で、自然と笑顔になってしまうんだろう。
普通じゃない結婚をした私達。だけど、こんな風に娘として可愛がってもらえるだなんて、入籍した時は思ってもみなかった。慣れない空気は、やっぱり落ち着かない。
だけどそれ以上に。

「真緒、ビール飲む?」
「え、あんの?」
「買ってきてる。環ちゃんは飲めるかい?」
「あ……はい!」
「じゃあみんなで飲もうか。せっかくの正月やからね」

嬉しい。純粋に、そう思った。


お酒も程よく回り、お鍋の中の締めの雑炊もなくなった頃合いで、私はそっと手を挙げた。
隣に座る主任と、向かいに座る2人の視線が一気に集まる。

「あの。一つわがままと言うか、お願いがありまして」
「うん?」
「せっかくのご実家なので……真緒さんの小さい頃の写真とか見たいなーと思うんですけど」

思い起こされるのはお昼の会話。実家でしか出来ないこと。
私のお願いに、主任が表情をひくつかせたのがわかった。が、向かいのお二人はにこやかに笑っている。

「そうよなぁ! せっかく帰ってきてるんやもん、見てみて!」
「ちょ……本人の意向は無視か!」
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