突然ですが、契約結婚しました。
「…………」

ぱらぱらとページを捲っていく。恐らく婦人科で撮られたであろう出生直後の写真。退院時の写真。お宮参りの写真。
全てのページに、今の主任からは想像も出来ないような愛らしさの“真緒くん”がいる。

「ふふ、可愛い」

思わず口元が綻んでしまうけれど、仕方がない。写真の中の主任は、どれをとっても天使のように可愛いのだ。
あぁコレ、会社で売り出したらそこそこの値がつくんじゃないだろうか。

「あんま見るなよ、恥ずかしい」
「えぇ、いいじゃないですか」
「やだよ。どうせ、今の俺からは想像もつかないとか思ってんだろ」
「あ、バレてました?」

おどけて言うと、隣から軽いチョップが飛んできた。痛くはないのでスルーしておく。

「……あ」

順番にアルバムを見て、4冊目に差し掛かった頃。アルバムの中に、見覚えのある……というか、面影のある姿を見つけた。
小さい主任の隣で、不格好なピースをする女の子。写真の横に添えられたメモには、【真緒 4歳 穂乃果ちゃん2歳】とある。
思わず止めかけた手を、不自然に誤魔化す。ページを捲ってもめくっても、彼女の姿はそこかしこにあって。隣から私の手元を覗き込む主任の顔を、見られなかった。

『家が向かいの、幼なじみで。ずっと……ほんまにずっと、いつ好きになったとか思い出せんくらい、一緒におって』
あの夜の主任の言葉が、ふと思い起こされる。この言葉を裏付ける写真の数々。

「アルバムなんか普段見ることなかったけど、たまに見るといいな。全然覚えてないけど、懐かしい」
「……そういうものですか?」
「あぁ。惜しいな、環の昔の写真も見られたらよかったんだが」

そう言った主任の声は穏やかで、そこから真意は測れない。

「残念ながら、私の小さい頃の写真は手元にはありませんよ」
「あぁ、本当に残念だ」

彼の心は、まだ穂乃果さんを真っ直ぐに想っているんだろうか。


夜も更け、お風呂上がりに主任の部屋でスキンケアをしていたところに扉が開けられた。振り返ると、トレーナーにスウェット姿の主任が両手に布団を抱えている。

「和室からとってきた。和室で寝られたら良かったんだが、母さんの使ってない健康器具とか父さんの使ってない筋トレ道具なんかで、どうも物置状態で」
「あはは。お気になさらずです」
「布団入れ替えて、ベッド使うか?」
「いえ。主任がベッドで寝てください」
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