どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
社長の本当の顔ってどんなのですか?
強がって、厳しい顔ばかりしているあなたの本当の顔が見たい。
「バカ、俺を好きになるなよ。どうせ俺はどっかの社長令嬢と結婚させられるんだから」
うん、そんなことわかってる。
ずっと前からわかってる。
神保社長はただの憧れの人で、遠い存在で……
本気で好きになる相手じゃない。
忙しい仕事の合間に、オアシスのように存在する素敵な人。
それはみんなのオアシスであって、決して足を踏み入れてはいけない。
足を踏み入れた瞬間に、あり地獄のように吸い込まれて抜け出せなくなる。
そんなこと、わかってる。
わかってるのに。
「また、話しに来てもいい?疲れたときに」
私をぎゅっと抱きしめてくれた社長は、耳元でそう言った。
「社長のオアシスになりたいです」
口から自然と出てしまったその言葉に、社長はとても嬉しそうな顔をしてくれた。
「オアシスさえあれば、頑張れるかな。俺……」
そう言って、社長は大きな手を私の頭の上に乗せた。
「営業3課の営業事務で入社4年目の小久保さん。入社は俺が社長に就任した年だった。俺、社長だからそれくらい前から知ってるよ」
「え、すごいです!さすが社長です」
頭の上に乗せた手でぐしゃっと髪を乱して、やんちゃな笑みを浮かべた。
「純粋だな、君は。君の前では、嘘をつけないな」
「社長……?」
「ずいぶん前から、君は俺にとって小さなオアシスだったよ」
「えっ……」
社長は、早く帰れよ、と言って、私の肩に手を置いた。
部屋から出ていく社長の背中を見つめた。
今の、どういう意味なんだろう。
気付くと、私の目には涙が溢れていた。
頬をゆっくりと伝う涙で、私は認めることができた。
ずっと、ずっと前から好きだった。
認めることが怖かっただけ。
コンパや紹介で男性と出会っても、いつも比べてしまっていた。
大きな背中に、ピンと伸びた背筋。
時々見せる少年のような笑顔と、『おはよう』って言ってくれる時の声。
エレベーターで22階を押した私に、
『ありがとう』って言ってくれた。
普段見せないような優しい表情で、ペコって頭を下げてくれた。
疲れた顔してあくびをしている社長と目が合った時、照れくさそうに笑ってくれた。
いろんないろんな社長のこと、全部記憶してて。
認めるのが怖かったけど、ずっと私は社長のことが好きだった。
実るはずのない恋でもいい。
私はこの気持ちに正直に、社長を好きでいたいんだ。