どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
野菜の準備を終えて戻る頃にはお肉を焼き始めたようで、いい匂いがしてきた。
振り向くと、はしゃいでいる圭史さんが見えた。
そこには佐竹さんも新井君もいて、普段絡むことがない若い子たちと触れ合う圭史さんが新鮮にうつる。
ずっと、こうしたかったんだと思う。
威厳も大事、でも、それだけじゃ誰もついてこないって話してくれたことがあった。
親しみの湧く社長っていうのがいてもいいよね、きっと。
それから、女性陣が作ったカレーも出来上がって、各自移動しながら楽しんでいた。
だんだん日も暮れてきて、空がピンクと紫色に染まる。
「小久保さん、ちょっと歩きません?」
新井君に突然声をかけられ、とっさに動揺を隠せない。
吉岡先輩が言っていた言葉が頭をよぎる。
「え、あ、うん。ちょっと酔っ払ったしいいね。行くなら皆で一緒に……」
食べ終えたカレー皿をテーブルに置いて、吉岡先輩を探す。
結局、吉岡先輩も佐竹さんも見当たらず、私は新井君と二人で散歩をすることになってしまった。
いきなり声かけられるなんてびっくり。
会社でも、ふたりで話すというよりは吉岡先輩達を含めてみんなで話すだけだったし。
「いやぁ~、いい会社っすね」
「だね。キャンプも気持ちよくて、いいね」
「俺、飲み過ぎてフラフラです。一番新人だし、夜も飲まされるだろうな」
フラフラと言いながらも、顔もそんなに赤くなくてお酒は強そうだった。
テントのある場所を抜け、馬が繋がれている建物の方へと歩いた。
「小久保さん、彼氏いるんですか?」
「え?なにそれ、直球すぎる質問!あはは……」
なんとか誤魔化そうとしたけど、新井君はもう一度同じ質問をした。
「新井君は?やっぱいるんでしょ?結構モテそうだよね」
「俺、いないですよ。仕事に専念するって決めたから入社が決まってから彼女は作ってなくて」
「すごい!真面目だね。仕事に一生懸命って素敵なことだよね」
寄ってくる子はたくさんいると思う。
サッカーで鍛えられたという体と、サラサラヘアで笑顔がかわいい。
「でも仕事も慣れてきて、そろそろいいかなって思ったりしてるんですよ」
「そうなんだ」
なるべく核心をつかないように、興味のないような返事をした。