どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~


「サッカーやってたんだよね」

と話をそらしたつもりだったけど、思わぬ言葉を引き出してしまった。


「俺、中学の時からサッカー一筋で、彼女に寂しい思いをさせたことがあって。でも全然気付かなかった。彼女は俺のサッカーを応援してくれてると思っていたけど、ずっと寂しかった、ずっとサッカーが憎かったと言われたんですよ。それでハッとして。俺は、ひとつのことに集中すると他がダメな人間なんだってわかったんです。だから、仕事に夢中になると彼女を寂しくさせてしまうと思って、誰とも付き合ってないんですよ」


その話を聞いて、中学時代の私が浮かんだ。

私、そのものだった。

憧れの大好きな人と付き合えたのに、何一つ言いたいことが言えなかった。

大好きだから、言えなかった。


サッカーをしている彼が好きだったから。
だから、サッカーが一番、私が二番でも構わないって思ってた。
そう思うように努力した。

でも、寂しくて悲しくて…… 逃げちゃった。


「私も経験あるから、わかる。その彼女、新井君のこと本当に好きだったから言えなかったんだね。会いたいとか私を見てって言えなかったんだよね」

「小久保さんも、相手のこと考えちゃうタイプですもんね」


まだそんなに親しくもないのに私のことをよくわかっているような口調だった。

当たっているけど。



「ずっと見てるからわかります。小久保さんは、自分が大変な時でも、人のことを優先するし、仕事もいっぱいいっぱいなのに俺のこと手伝ってくれたりするし、ミスもうまく処理してくれたりして……新人の俺には心強い存在です」

「え、そんなことないよ!当たり前のことをしてるだけだよ」

「当たり前じゃないですよ。自然にああいうことができるのは、小久保さんの才能だと思う。……だからみんな小久保さんのこと好きなんですよ」




強い視線を感じて、新井君を見られなかった。

でも、この話の流れからして、恋愛感情ではなく先輩として私を好きでいてくれていることがわかった。

吉岡先輩が言うような、感情ではないはず。


< 124 / 189 >

この作品をシェア

pagetop