どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
「大変な仕事してんだな。俺達は、指示して結果を求めて、社員ひとりひとりのことなんて何もわかってない」
社長はため息をついて、背もたれに体重をかけた。
「上に行くと、どんどん見えなくなる。君だけは俺に何でも言ってくれ」
「社長……」
「俺なんて、ただのお飾り社長なんだよ。親父がいないと結局何もできない。決定権は全部親父なんだから」
「…………」
私は、ただのOLで。
こんな会社の内部の話を聞いていいのかわからなくて、何も返事ができなかった。
私には理解できないくらい、大きな悩みや苦しみがあるのだろう。
「私は、何もわかりません。でも、社長が社長で良かったって思います。そう思ってる社員はたくさんいます。厳しいけど、ただ厳しいだけじゃない。社員のこと考えてくれてるってうちの部でも上司が話していました」
「そっか。そうなんだ。苦労もせず社長になって、みんなからバカにされてるかと思った」
「……どうしたんですか。社長、今日元気ないです」
なにかを考えるように顎に手を当てた社長は、眉をさげて笑った、というか無理して笑顔を作った。
「俺がね、若い頃からお世話になっていた下請け業者があるんだけど、そこを今月で切れって言われてね。まだ大学を卒業してすぐの頃に、よく助けてもらった会社なんだ。社長の息子だって知ってても、ガンガン言いたいこと言ってくれるし、俺を成長させてくれた会社でさ」
遠い目をした社長は思い出すように、静かに話してくれた。
窓の外は今日もキラキラと輝いている。
「会社を大きくするためには、そういう決断も必要だってわかってる。義理とか人情だけじゃやってけないってこともわかってる。でも、俺にはできない……」
そっと社長の手に手を重ねた。
「私は、何もわからないしできないし、力にもなれない。でも、社長が話して楽になるなら、話してください。弱いとこ、全部私には見せてください」
冷たかった社長の手が、少し温まってきたのがわかる。
「オアシスだからな。今日、会えて良かった。こんな話聞かされても、困るよな、ごめん」
「困りません!社長が元気ない方が困ります!!」
そう言い終えるか終えないかのタイミングで、私の体は社長の腕の中に包まれていた。