どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~


翌朝、チュンチュンという野鳥の鳴き声で目が覚めた。

あくびをしながら、テントを出て顔を洗いに行こうとしたら、新井君が火をおこしていた。


「おはよ、早いね」

「おはようございます。朝食担当なんで、俺」


朝は、ホットサンドと、ピザ、コーンスープというメニューらしい。


「あの、小久保さん。小久保さんの好きな人ってもしかして、社長ですか?」

「え?」


鳥の鳴き声も一瞬止んだ気がした。


どうしたの?新井君。

何か知ってるの?

昨日、何か見たの?


「な~に言ってるの?そんなわけないじゃん。あんな高値の花」

とテンションを上げて答えたが、声は震えていたかもしれない。


「じゃあ、俺の見間違いっすね。夜、トイレに行こうとしたら、小久保さんのテントから出てくる社長が見えて……」

「そ、それ、佐竹さんじゃない?一緒にUNOしてたから」

「あ~、そうかもですね。すいません」


やばい、この反応は信じていないのに、信じてくれたフリをしてくれている。

どうしよう。
絶対に怪しいと思ってる。



でも、たかが一社員の私が社長と付き合ってるなんて誰も思わないよ。

どうにか誤魔化せたらいいけど。


「小久保さん、キャンプファイヤーの時ずっと社長のこと見てたような気がして」

「あれ、火を見てたんだよ、火!」

「あ~、そうか。俺の勘違いですね」


新井君、もう絶対気付いてる。


そりゃそうだよね。

好きな人の視線や、動きって他の人よりも見ているし、好きだからこそわかってしまう。

新井君は私を好きになってくれたから、私の小さな変化にも気づく。


「別に誰にも言いませんよ。SNSで広めたりとかそんなガキみたいなこともしないから、安心してください。でも、もしそうだったとしたら、社長だけはやめといた方がいいですよ。絶対結婚できないから」

「あはははは。そんなのみんな知ってるよ~。だから、誰も狙わないんじゃない?かっこいいけど、誰とも噂ないもんね」


顔が引きつりながらも、声だけは明るくしたつもり。
だけど、バレてるな、これ。


「ですよね。社長って住む世界違うから、好きになってもつらいだけですよ」

「だから、違うってば」

「もし、その気があるようなことを言われても、絶対他に女がいると思うし、本気になると悲しむことになるから」

「心配ありがとね。でも、大丈夫だよ」


あはははと笑いながら、その場を離れた。


心臓がバクバクしていた。

何を見られたの?

片思いだと思っているのか、付き合っていると思っているのか……。


新井君、どうかこれ以上詮索しないで。




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