どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~


「圭史から、話は聞いています」

一瞬目を合わせた後、すぐに目をそらした相談役。

「あのね、小久保さん。率直に申すと付き合っているということと、結婚というのを私は別物だと思っています」

穏やかな表情から、厳しい言葉が出る。

「それは親父の古い考えだろう。俺は、親父みたいに愛人作ったり、浮気したりっていうのは絶対にしたくない」


相談役、いや、今はお父さんか。

お父さんの言うことはつまりそういうこと。
別れろとは言っていない。

結婚をしても付き合っていればいいじゃないか、ということ。


「圭史はわかっていない。小久保さんのことを本当に好きなら、お前も考えるべきだ。お前と一緒になって、幸せになれると思うか」

「俺は親父とは違う。仕事も家庭も大事にしたいし、彼女のことを守る」


呆れたようにため息をついたお父さんに、私も言いたいことがたくさんあったけど今は言うべきではない。

黙って、ふたりの会話を聞いていた。



「あの縁談だけは断ってください。俺は、あのお嬢さんとは絶対に結婚しない」

「いい話なんだがな。これを聞いて、あなたが身を引いてくれると助かるんだが」

目が合う。
こういうの、ドラマの中でよく見る場面だ。

「…………」

「親父、いい加減にしろ。俺は、万由が身を引いても追いかけるから」


これが現実に起こっている出来事なんだなってやけに落ち着いていた。

現実味がなくて、本当にドラマみたいで、ふわふわしていた。

「お前は、昨日も言ったな。仕事で認めさせるって。どうやって認めさせるというんだ」


圭史さんは両手をぐっと握って、下を向いていた。


そして、しばらくの沈黙の後、

「来年の台湾での事業を成功させたら、認めてもらえますか」

と言った。


私には何のことだかわからなかった。


「よろしい。では、来月から、お前は3か月間、現地へ行きなさい」


圭史さんが3か月台湾へ?

どういうこと?






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