どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
「私、無理だもん。社長夫人とかいやだし。結婚もしたくないしね」
あっけらかんとそう言った吉岡先輩だけど、きっとそんな簡単なことじゃなかったと思う。
「もったいないっすね。一回くらい抱かれときゃ良かったのに」
佐竹さんは、また吉岡先輩からチョップを食らった。
「今は、社長とは……?」
私が控えめにそうきくと
「もう、何もない!!それからどっかの会社の娘と付き合ったし、私は友達としては付き合いたい人だったけど、彼氏とかっていう対象じゃなかったんだよね」
どっかの会社の娘さんと付き合った、そんなことがあったんだ。
それはうまくいかなかったんだろうな。
だから、いつか親に決められた相手と結婚する、って言ってたのかな。
さらに牛タンがのどを通りにくくなってきた。
流し込むようにして、水を一気に飲む。
「で、あんたの彼氏はどんなヤツ?」
肩に手を回され、顔を覗き込まれる。
「まだ付き合ってないですけど、付き合うかもって感じです」
「ヤッたの?」
顔を近づけて、真顔でそう聞かれ、
「はい」と答えるしかなかった。
「佐竹、抜かされたね」
と言うと、佐竹さんは結構大きい声で
「だから、俺童貞じゃない!!」
と言い、吉岡先輩は大笑いをした。
今日聞いた話を、圭史さんにしてもいいのかわからない。
もしも、まだ吉岡先輩への想いを少しでも持っているとしたら……
なんて考えてしまう。
でも、相手が吉岡先輩で良かった。
美人秘書軍団の誰かじゃなくて良かった。
「佐竹、あんたはどうなの」
「俺は、別に……どうでもいいっす」
「何、その偉そうな態度!あたし先輩なんだって忘れてるでしょ」
最後の一枚であろう牛タンを、吉岡先輩に奪われた佐竹さんは、怒りながらも嬉しそうな顔をしていた。
こんな仲間がいれば、仕事も楽しいし、頑張れる。
大好きな人たち。
信頼しているのに、圭史さんとのことを言えなくて……
本当のこと、言えなくてごめんなさい。
隠し事はしたくないけど、
大事な恋を守るため、許してください。