どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
「あのキスのこと、私も覚えてるよ。相手が誰だったんだろうってずっと探してた。だって……すっごいすっごい優しかったんだもん」
「え?」
ちゃんと伝わってたんだ。
俺の想い。
「抱きしめてくれたよね?」
「あ、はい。泣いてたから」
俺の知らない顔をした吉岡さんがいた。
「私ね、恋も結婚もあきらめたんだ」
「…………」
遠くを見つめる吉岡さんを見て、俺はどうしようもなく抱きしめたくなった。
何があったんだ。
普段楽しそうな吉岡さんの胸に抱えた悩みはどんなものなんだろうか。
俺に抱えられるものなのか。
いや、どんなものでも、抱えてみせる。
俺は、残っていたお酒を一気飲みすると、気合いを入れて、店を出た。
夏なのに、夜はひんやりとした風が頬をすり抜けていく。
足元のおぼつかない吉岡さんの腕をちょっと引っ張ると、俺の体にトンとぶつかる。
「大丈夫ですか?ちょっとどっか座りますか?」
「ん~、だね。このまま電車乗ったら、確実に車庫までいっちゃう~」
「あそこの公園で休憩しましょう。お茶買ってくるんで、ここで待っててください」
「やだ~!連れてけ~」
腕に絡みつく吉岡さんに、俺の気持ちは止められなくなった。
俺は、細い体を抱きしめていた。
細くて、折れてしまいそうな体なのに、いつもパワフルで楽しい人。
「や~だ~セクハラ~」
「いや、逆セクハラですよ、吉岡さんが」
「もう離してよ~!あんたBL界のかわいこちゃんなんだから、男みたいなことしないでよ」
俺の胸を押し返す。
「俺だって、男ですから」
「…………っ」
吉岡さんの後頭部を俺の胸に引き寄せた。