どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
「恋人っぽいとこ、どこだろうな」
「そんなこと考えてくれたの?ありがとう」
「そりゃ、付き合ってるのに、事務所や社長室でしか会えないのはつらい」
それから、デートスポットをいくつか挙げていくうちに、水族館に行くことに決定した。
「大丈夫かな、俺。水族館、薄暗いから発情するかも」
「え~!土曜日の水族館はめちゃめちゃ混んでるから変なことはできないよ」
「だな。今日は紳士的な俺でいるよ」
こうしてたら普通のカップルなのにな。
やっぱり普通じゃないんだよね。
付き合って2ヶ月になろうとしていたけれど、知らないことはたくさんあるし、私のことも話せていない。
家庭のこと。
一番話さないといけないのに話せてないもんね……。
話す勇気がないというのが正直なところ。
話しても、圭史さんは受け入れてくれると思うんだ。
ただ、私が……
住む世界が違うんだな、とか家庭環境が違うって再認識しちゃう。
「おお、駐車場がこれだけ混んでるってことは、券買うのも並んでるな。ネットで買えるかな」
スマホを取り出した圭史さんは、器用に左手だけでスマホを操作する。
左手で胸を揉んだり、左手結構器用だな、と思って、聞いてみる。
「左利きじゃないよね」
「うん。小さい頃、左利きだったらしい。両方使えるけど、左でボール蹴ったりするから、左利き気味なのかも」
とまた知らない情報を知った。
「お、ネットで買える。俺の財布ちょっと取って」
私が、後部座席に手を伸ばすと、すかさず胸の谷間の 手を入れてくる。
「こら!!」
「だって、谷間すげーエロかったんだもん」
財布の中から、クレジットカードを出すように言われ、財布をあけた。
金色に輝くカードに、さすが社長なんだなと思う。
「番号、言って」
ネットで水族館の入場券が買えちゃう時代なんだ。
そして、それをスマートにできちゃう圭史さんってすごい!!と感心していると、財布の中にピンクの名刺が見えた。
うん、そうだよね。クラブとかでもらうもんね。仕方ない。
「あ、そうだ。財布の中のいらないもん、全部捨てて」
「え?」
「俺、財布の整理苦手でさ。すぐパンパンになるからその辺の名刺とか捨てといて」
これもまた全部計算されたものなの?
私の不安を消すために自然にこういう風に持ってきたの?
「いいの?」
「その辺、全部いらない」
私は色とりどりの名刺を束にして、圭史さんに渡す。
「仕事に関係する名刺は名刺入れに入れてるから、それは全部いらない」
なかなかごみ箱に捨てられない私を見て、
「バカだな、万由は」
と言って、圭史さんがごみ箱に入れた。
たったこれだけのことだけど、私にとっては涙が出るくらいの出来事なんだ。
私を安心させようって、圭史さんは常に考えてくれている。