どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
「吉岡先輩、今日飲みに行きません?」
午後の静かなオフィスで、隣の席の小久保が声をかけてきた。
「どしたの?あんたから誘うなんて珍しい。何か進展あったの?」
私は、入社した当時の小久保を見て、すぐに好きになった。
まっすぐで、一生懸命で、それで子猫みたいに私のあとばかりついてきて。
間違いを隠さないんだよね。
ごめんなさい、助けてくださいって素直に言える子。
最近では珍しい。
小久保は、私の変化にすぐ気が付く子だった。
彼氏と喧嘩したり、悩んでいると声をかけてきて。エスパーか!っていつも突っ込んでた。
「ちょっと相談がありまして」
ペコリと頭を下げた小久保の頭に手を乗せて、答えた。
「とことん飲むよ。覚悟しなよ」
「俺も連れてってくださいよ~、先輩~」
と猫なで声を出す、私の彼氏。
「バカ。今日はあんたはひとりでAVでも見てな」
私はそう言って、しょんぼりする佐竹を楽しんでいた。
病気のことを小久保に話して良かったと思う。
心からそう思う。
泣いてくれた。
過去のことなのに。
あの人を思い出した。
私のために泣いてくれた先輩。
小久保は、心が綺麗。
そして、私をちゃんと知ろうとしてくれる。
「え、ちょっと待って。今何て言った?」
私を本当に慕ってくれているのがわかるから……
だから……
小久保の好きな人の話を聞いて、小久保はどれだけ複雑な気持ちだったんだろうって心配になる。
まさか、小久保が……
かわいい後輩の好きな相手は社長だった。
社長と……なんて、想像もしたことなかった。
「私と社長の話、つらかったよね」
「いえ、大好きな人が大好きな人を好きってなんかすごくないですか」
と強がっているけど、きっと、つらかった。
「吉岡先輩の病気の話を聞いてからずっと考えていたんです。病気がなかったら、社長と吉岡先輩はどうなっていたんだろうって」
「どうもならないよ。社長とは気が合うけど、やっぱり無理だったと思う。付き合ってたとしてもすぐ別れてただろうなって」
病気じゃなかったら……それは何百回も頭の中で考えた。
きっと、いろんなしがらみは置いといて、きっと胸に飛び込んだはず。
好きだった。
初めてだった。
地位も名誉も金もあるのに、それを武器にしていない男。
純粋で真面目で不器用で、弱くてもろくて、私がお尻叩いてやらなきゃ社長なんてつとまらないって思ってたよ。
でも、立派な社長になった。
それは、本当に嬉しかった。