どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~
個室のある和食屋さんだった。
指定された店にあたし一人で先に入り、案内された奥の部屋で待っていた。
こうしてちゃんと話すのは何年振りだろう。
あれからあたしは恋を休んでいた。
今は、佐竹と付き合っている。
佐竹と付き合ってて良かったと改めて思った。
私自身が満たされているのもそうだけど、あたしがフリーだったら小久保絶対もっとつらかったと思うんだよね。
「あ、遅くなりまして。神保です」
とふざけた登場をした社長のおかげで緊張が一気にほぐれた。
「初めまして、吉岡といいます」
と頭を下げて、笑い合った。
「今日は、すまない。予定もあっただろうに」
彼は何も変わっていないけど、目じりのしわが増えたかな。
それも魅力のひとつに見える。
「全然平気!それより、キャンプの話聞いたよ!それ、参加するから」
「お、マジ?万由が言ってた通りだな」
「え?万由って。あはははははっ!!小久保のこと、万由って呼んでんの?」
そりゃ付き合っているから当たり前なんだけど、なんか意外で笑ってしまった。
「いつもの吉岡に戻ったな。もろもろ、聞いてるとは思うが、どういうわけか小久保万由と付き合ってる。吉岡がまだ営業部にいるってことすっかり忘れててさ」
「失礼ね!!勝手に異動させないでよね」
「冗談だよ」
社長は、変わってなかった。
しっかりとした社長になったけど、こうして話すと変わってない。
「吉岡先輩、吉岡先輩ってアイツが話すんだよ」
「だろうね。小久保、あたしのこと大好きだから」
笑顔が浮かぶ。
小久保は大事な存在なんだ。
だから、あの子の気持ちを無駄にしないよう、ちゃんと話そう。
「まさか、ふたりが付き合ってるなんて、ね」
「最初にアイツを紹介してくれたのは吉岡だったよな。いい子がいるって」
「そうそう、ほんとかわいいんだよ、あの子は。入った頃からあたしにとっては特別な存在だから」
「ああ、わかる気がするよ」
「わかってる?あの子泣かせたら、どうなるか」
「ははは。そう言われると思ってた」
話してると伝わるよ。
ちゃんと大事にしてるってこと。
本気だってこと。
「アイツは、ちょっと吉岡に似てるところがある。俺を特別扱いしないところとか、そういう自然なところとか」
「あたしより、100倍純粋だけどね」
「それは、そうだな」
「ちょっと~!」
話し方は昔より穏やかになった気がする。
社長の貫禄、というのかな。
腕まくりした腕は、たくましかった。