記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
この半年ほど、子供を身籠もってから、裕介は一度も結衣に触れたことがない。

子供を理由に、それまでは定期的に求めてくれたのを、仕事を理由に、寝室を別にしている。

「玲子は結婚願望ないの?」

「いまは一人がいいわ、気楽だし、気になる人とすぐセックスできるしね」 

口元の左下にあるホクロと一緒に、玲子が唇を、引き上げた。

その下の首の左側には、真新しいキスマークがついている。裕介が、よく結衣につけていた場所と同じだ。

「てゆうか、妊娠中のセックスってどんなかんじなの?」

一瞬、自分の視線が揺れる。

「……別に普通よ、まだお腹も大きくないしね。裕介も求めてくるし」

「ふぅん」

「何で?気になる?」

「別に深い意味なんて、ないわよ。それより、ねぇ、結衣、正直、子供育てる不安ってないの?」

「そうね、私には、親も親戚もいないから。でもまもなく生まれてくる、この子に沢山愛情を、かけてあげたいの」

結衣と玲子は施設で育っている。玲子はシングルマザーだった、まだ二十歳の母親の育児放棄だった。

結衣は、コインロッカーに入れられて泣いていたところを駅員さんに見つけてもらって、命拾いしたのだ。  

玲子とは、幼心がつく頃には、いつも一緒だった。

玲子はその美貌と明るく気さくな性格で、みんなの人気者だった。結衣はそんな玲子と親友であることが嬉しかったし、唯一の肉親のようにも感じていた。


『結衣の幸せが私の幸せなの』

それが、玲子の口癖だった。
 

結衣にとって、玲子は、かけがえのない大切な人だった。

ーーーーそう高校生までは。


一つだけ結衣には、どうしても理解できないことがある。それ故に、玲子と裕介との関係を疑っているのだ。
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