記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
玲子は、結衣の自宅から、わずか五分程の距離にあるアパートで暮らしている。
結衣は、ラピスラズリのピアスに、オレンジベージュの口紅を塗って、淡い紫色のワンピースに身を包むと、バースデーケーキを大事に抱えた。
玄関に施錠すると、いつものように自宅前の細い道を一本入る。小さな公園があって、川沿いにある三階建ての小さアパートだ。昼間でも誰かと通り過ぎることは少ない。
裕介が、玲子の家に出入りしてたとしても、夜であれば、まず、近所の人にも気づかれずに、密会を重ねることは容易だろう。
101号室のインターホンを鳴らすと、すぐに玲子が出迎えた。
予想通り、自分と同じ淡い紫色のワンピースだ。
「あ!やだっ!誕生日まで、お揃いだ」
耳に栗色の髪をかけると、ラピスラズリのピアスが光り、形の良い唇にはオレンジベージュの口紅が、ひかれている。
先月、玲子がうちに来た時に、有名ジュエリーデザイナーが、初めてプロデュースする30代から40代をターゲットにした、洋服の新ブランドの話を、パソコンでワンピースの画像を見せながら話したからだ。
「このワンピース、結衣も買ってたんだ」
しらじらしい。結衣はこのワンピースを予約したことも、その時、玲子に話していた。
限定100着。玲子もおそらく急いで予約して、結衣と同じワンピースを、手に入れたという訳だ。
「ほんと、私達って気が合うわね」
「ほんとね」
結衣はゆるりと笑うと、お邪魔しますと、断ってから靴を脱ぎ、リビングのダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
「あ、これケーキ。一緒に食べない?」
「ありがとう。結衣。先に紅茶をいれるわ」
冷蔵庫にケーキを仕舞うと、玲子はお湯を沸かす。
「あ、音楽でもきく?」
紅茶を蒸らしながら、台所からリビングに戻ってきた玲子がミニコンポに手を伸ばした。ミニコンポの上には、わかりやすく煙草が一箱置いてある。
裕介の吸っている銘柄と同じだ。
「あ、大丈夫、せっかくの玲子の誕生日だひ、ゆっくり話しながらお祝いしたい」
「ありがとう。あ、そろそろ、だね」
時計で時間を確認すると、玲子が、紅茶を注ぎ入れて、結衣の目の前に差し出した。
ふわりと薫る、どこかで嗅いだことのある紅茶の匂い。
もうここまでくると、聞く気も失せる。
「ここの紅茶美味しいの。結衣飲んでみて」
「ほんと、とっても美味しいわ」
「ある人からのイギリスのお土産なの」
引き上げられた口元のホクロを眺めながら、結衣は、溢れそうな黒い感情をなんとか押し込める。
「ケーキ取ってくるね」
玲子が、嬉しそうに冷蔵庫に向かう姿を、眺めながら、玲子の入れられたばかりの紅茶に、結衣は目を細めた。
玲子が、冷蔵庫からケーキの箱とお皿を抱えて戻ってくる。
「開けるね」
箱からケーキを取り出した。
「あ、私の好きなフルーツケーキ」
苺、キウイ、パイン、桃と色とりどりのフルーツと共に、プレートには
『Happybirthday Reiko』
と書いてあるのをみて、玲子が手を合わせて嬉しそうに微笑んだ。
「そう、あとね、ロウソクの代わりに、花火持ってきたの」
結衣は、心からの笑顔を玲子に向けた。
「やだ、お店みたい」
「準備するから、玲子は、紅茶でも飲んでて」