記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
小学生五年生の時、梨紗には、初めて親友と呼べる友達ができた。名前は、恵美。
恵美は、気さくで誰とでも仲良くて、優しくて、人と話すのが苦手な、梨紗のことをよく気にかけてくれた。
ある日一緒にクラスで飼っている、うさぎの飼育係をすることになった。メダカの事があってから生き物の世話をすることに抵抗があった梨紗を、恵美は、『大丈夫だよ』って励ましてくれた。
迷いのあった梨紗は、帰り道、蓮に相談した。
「大丈夫、梨紗なら、ちゃんもお世話できるよ」
「うん……」
「心配?」
蓮は、目を細めて笑うと、梨紗の髪にピンを差し止めた。
「お守りだよ、ちゃんとお世話できるように」
家に帰って眺めると、可愛らしいウサギモチーフの髪留めだった。蓮の手作りなのかもしれない。少しだけ、左右の耳の長さが違う、ウサギが、梨紗は、とても愛おしく感じた。
それから毎朝、少しだけ早起きをして、飼育小屋に向かい、まずは、人参とキャベツをウサギに与える。糞掃除が終わったら、銀色のボウルに新しい水に入れかえる。
単調な毎日が、ウサギの世話をするうちに、梨紗の心にほんの少しだけ、あったかいものが、芽生えた。飼育小屋の扉を開けるだけで、寄ってくるウサギの姿に、梨紗は素直に喜びを感じていた。
恵美も、「梨紗ちゃん、懐かれてるね」って笑ってくれて、少しだけ自分に自信がついた。
そんなある日、事件は起きた。
その日は、恵美が、熱を出して学校を休んでいた。五時間目は、体育のプールの授業だった。梨紗は、かかさずつけていた、ウサギの髪留めをそっと筆箱にしまって授業に参加した。
放課後、梨紗は一人きりで飼育小屋を掃除して、ウサギ達に餌の人参をボウルに入れて、与えていく。いつもは二人でするお世話を一人でするのは大変だったが、大好きな恵美の分まで、ウサギ達の世話をできることが嬉しかったし、懐いてくれているウサギ達は、単純に可愛かった。
儚い、小さな、無垢な命。その命を自分の掌が握ってる気がして。
ーーーー翌日ウサギは変死していた。
餌に何か有毒なものが混ぜられたいたらしい。
翌朝登校してきた恵美が、梨紗を指差して、涙ながらにこう言った。
「梨紗ちゃんが、殺したっ!!」
教室の皆の視線が梨紗に突き刺さる。
「だって、これウサギさんの口に入ってた!」
突き出されたのは、蓮から貰ったウサギの髪留めだった。
「嘘……」
ちゃんと、筆箱にいれていた、髪留めは、気づいたらなくなっていた。梨紗は、皆の突き刺さるような視線が忘れられなくて、学校に行けなくなった。心の中は、灰色から、涙と共に、少しずつ色が深くなっていく。
蓮だけだった。毎日、欠かさずに放課後、梨紗に会いに来て、優しい言葉をかけて、励ましてくれた。
「僕は梨紗の味方だよ」
いつもそう言って、安心させるように、微笑む蓮が、梨紗の心の拠り所となっていた。
ーーーーこんな自分に蓮だけ……蓮だけは、離れる事なく、ずっと側に居てくれる。