記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
中学に上がっても相変わらず、梨紗の隣にはいつも、蓮が居た。中学二年生の時に、吹奏楽部だった梨紗は、一つ年上の先輩に、初めての恋をした。

「田中梨紗さん、僕と付き合ってください」

ある日、誰もいない放課後の音楽室で、思いを寄せていた先輩に告白された。

家までの帰り道、蓮に相談したら、付き合ってみたらと後押ししてくれて、嬉しかった。


ーーーーでも、付き合いだしてすぐだった。

先輩は、放課後、楽器店に一緒に行った帰り道、駅の階段から落ちて、大怪我をした。

大好きだったバイオリンは弾けなくなって、家の親に先輩の親から慰謝料を請求された。勿論交際どころじゃなくなって、先輩は遠い街に引っ越した。

泣きじゃくる梨紗に、蓮は優しく肩を抱いた。

「梨紗は、何も悪くないから」

「でも私と一緒に帰ったせいで……」

「不運な事故だった……」   

蓮は、綺麗な瞳を悲しそうに伏せると、梨紗をぎゅっと抱きしめた。 

「梨紗のせいじゃない。僕が守ってあげるから」

梨紗の震える身体を、蓮は、何度も大丈夫だからと背中を、摩ってくれた。もう、蓮が居れば何もいらない。 

ーーーー誰も要らない、そう思った。


梨紗が、高校生になる頃、両親の喧嘩が絶えなくなった。耳を塞ぎたくなるような罵声が、飛び交う家が、自分の家であることが苦痛だった。

それでも、二人とも世間体と近所の目は大事なようで、土曜日だけ、これ見よがしに二人で車に乗り込み出かける。

梨紗は、二人が嘘の仮面を被って、出かけるこの瞬間だけは、殺意とも思える黒い感情が込み上げていた。

「蓮、うちの両親ね……いつも喧嘩ばかりなの」

「そうなの?昨日も仲良さげに出かけて行ったじゃん」

公園のベンチに座って、月明かりだけが、梨紗を照らすまで、家に帰らないことが多くなった。そんな梨紗の隣には、相変わらず蓮が居た。

長らく、我慢していた涙が、限界を迎えて、苦しくて、コロンと溢れ出る。

「梨紗?」

蓮の前で、久しぶりに涙を見せたからかも知れない。 

「もう、あんな家居たくないの」

苦しい心の中の言葉を、そのまま口に出したら、あっという間に、涙は止まらなくなって、縋る様に蓮の胸の中に居た。

「蓮、たすけてっ……苦しくて……たまらないの」

「……梨紗……俺は、どんな事があっても、梨紗の味方だから……」

少し戸惑った蓮が、梨紗の背中にそっと触れて、「大丈夫だから」と、小さく呟くのが聞こえた。

背中から伝わる蓮の掌が、じんとあったかくて、自分のことを蓮だけは、ずっと守ってくれる、そんな予感が、確信に変わった瞬間だった。
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