記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
第4夜 嫉妬
「もうー、何度言ったらわかんの?波多野(はたの)ちゃんは?馬鹿なの?」

周りのお客様の目を、気にも留めずに、某百貨店の婦人服売り場で、課長の西川翔子(にしかわしょうこ)は、大きな声で、新入社員の波多野文香(はたのあやか)を叱責していた。

「お言葉ですが、先程の納品書は、西川課長が個人情報の兼ね合いから、シュレッダーするようにと」

文香は、西川を見上げながら、控えめに言葉を発した。

途端に西川の眉間に、深い皺が寄る。

「あんたね?私が間違えた指示出したって言ってんの?納品書よ?シュレッダーなんて、してどうすんの?」

「ですから、西川課長に、本当に良いのか確認しましたら、その納品書は、キャンセルになったら、もう要らないと仰ったじゃないですか……」

西川が、心底呆れたように言葉を吐いた。

「自分のミス位、ちゃんと認めて謝ったら?聞き間違えたの、あんたでしょ?」

西川は、身長170程の長身だが、細身ではない。さらには、大きな胸のせいで、制服のベストのボタンは弾き飛びそうだ。

(いいがかりだ……)

西川が、こうやって、3ヶ月前から、言いがかりをつけては、文香を叱責する。

「申し訳……ありませんでした」

「始末書書いて、部長に提出しとくのね、ほんと使えない新人だわ」

背の低い文香を見下ろしながら、睨みつけると、西川は、体重の重みでピンヒールの重心を左右に揺らしながら、遠ざかっていく。

「ふぅ……」

誰にも気づかれずに、()いた、ため息のはずだった。

「大丈夫?」

振り返れば、婦人服バイヤーの高瀬章介(たかせしょうすけ)が、こちらを覗き込んで、にこりと笑った。

「ちょっと、章介、だめだよっ」

文香は、売り場のディスプレイを、相談するフリをしながら、マネキンの後ろまで、章介を連れて行く。

「会社では、話しかけない約束でしょう?」

口を尖らせた文香を、見ながら、章介が唇を持ち上げながら、文香の頭を撫でる。

「章介っ!」

思わず手を振り払うと、文香は、にんまり笑う章介に眉を寄せた。

「そう怒んなよ。可愛くて、つい。……てゆうか、ごめんな……」

「別に気にしてないよ」

「嘘つけよ」

章介が、文香を、こつんと小突いた。

文香は、章介からの猛アプローチで、3ヶ月前から周囲に内緒で、付き合い始めたのだ。

新入社員として、婦人服売り場に配属されたばかりの頃、よく裏返りそうな高い声で、口に手を当てながら、嬉しそうに、背の高い章介を見上げる西川を、文香は度々目撃していた。

結婚適齢期を迎えている、今年28歳の西川は、章介に、気があるのだ。
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