記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
「合鍵作ってきた。またあとでな」

「うん、ありがとう。夜ご飯、作って待ってるね」

口元に人差し指を当てながら、悪戯っ子のような顔をしながら、章介はバックヤードに、入っていった。

文香は、愛おしい人を眺めるかのように笑った。
  


ーーーー「随分と、遅かったのね」

「悪い……待ちくたびれたかな?」

「何で、あの子に構う訳?」

「やきもち妬いてくれてるんだ?嬉しいな」

薄暗いバックヤードの片隅に、ディスプレイ用のマネキンを、保管する倉庫がある。鍵は、課長以上しか扱えない。マネキンのリース契約は高いのだ。それゆえ、立場ある人間が、貴重品として管理している。

「理由は、分かってんだろ?」

章介は、翔子の塗り直された、艶やかな唇を奪うと、ボタンの弾け飛びそうなベストのボタンを、ゆっくりと外す。

「好きだよ……」

ゆっくりと耳元で囁いてやれば、翔子がすぐに脚を開く。焦らすように、太腿に手をかけると、章介は、翔子を見つめた。

「例のブランドの秋冬の在庫、まとめて納品してもいいよな?」

既に、潤いを帯びた目で章介を見つめながら、指先を動かせば、すぐに翔子が甘い声を出し始めた。

「も、ちろんっ……」

周りには所狭しと置かれたマネキンが、まるで章介達の情事を、嘲笑うかのように、静かな視線を向けている。

ーーーー(これで、来季の成績も俺がトップだ)

百貨店に、定期的にそれも、かなりの数の納品先なんて、限られている上、コネか、余程のことでもない限り、なかなかその席は回ってこない。

百貨店では、シーズンごとの新作を、単発扱いで、数点の商品だけを納品する方が圧倒的に多い。なぜなら固定のブランドを、年間契約で納品する卸業者はすでに古くから、百貨店の上役達との強い繋がりがあるから。

「章介っ……はやく……」

翔子は腰をくねらせながら、こちらをうっとりと見上げている。

早く自分を、嫁に貰って欲しいとばかりに、いつも鼻息荒い翔子を抱くのは、面倒極まりないが、この関係は今はまだ必要だ。

そのうち、切ればいい。

此処の百貨店の部長の娘である文香に、プロポーズするまでの辛抱だ。翔子には、文香に部長を紹介してもらうまでの辛抱だと伝えたら、疑うことなく信じた。本当に馬鹿な女は助かる。

文香の事を、出入りする同業者同士で、意見交換兼ねて喫煙所で煙草を蒸していた時に、偶然、聞いた時は、本当に運がいいと我ながら感心した。

章介が、ニヤリと笑うと共に、翔子の甲高い声が響き渡った。
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