記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
「此処は、イベント広場から離れてる。夜は、ほとんど人も来ない。何処にも行く場所のないホームレス達が、ちょうど、池から見て、300メートルほど先の、茂みで夜を過ごしてるんだ。今朝、公園の警備員に通報したのも彼らのうちの一人だと分かっているし、財布から一万円札を抜き取ったことも、白状してる」 

相川は、先輩刑事の蓮野とタッグを組んで一年になる。仕事は早いが、掴みどころがない蓮野を恨めしげに眺めた。

「ってことで、死体みたけど、どこも傷ついてないし、恐らく、もう、一件の心中事件と繋がってんじゃない?」

相川の大きな瞳が、さらに大きくなる。

「ちょっと待ってください!まさか、蓮野さんが遅れたのって、そっち行ってたんですか?」 

「さぁ、どうかな、忘れちゃった」

蓮野は、相川の入れたビニール袋の証拠品の中から、手袋を嵌めた手で、その中の一袋だけを摘み上げた。

「これは?」

「死体と一緒に、池から出てきたスマホです、本人2台所有してたみたいで。もう一台は鞄と一緒に散乱してたんですけど」

「これ、僕が預かるよ」

「私が鑑識から、特殊復元チームに渡しておきますけど?」

「僕が、依頼かけた方が、早くしてくれるからね。復元チームは忙しいからさ」

「訳に立たない後輩で、悪かったですね」

蓮野は、自身を睨む相川を、ニヤつきながら見下ろすと、タバコを取り出し、火をつけた。大きく吸い込み、白い煙を吐き出す。

「ちょっと、現場は禁煙ですよ!」 

きゅっと目を細めた相川を気に留めずに、蓮野は、ビニール袋に入った水浸しのスマホをポケットに入れると、再度ニコチンを深く吸い込む。

「天気いいな」 

空は、雲ひとつない青空が広がっている。ただ、その言葉とは、裏腹に蓮野の顔は何処か、曇って見えた。
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