記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
蝉の声が聞こえてきて、ゆっくりと瞳を、開けた。

「来未?」

覗き込んだのは、綺麗な切長の瞳だった。

「私……」

(これは夢だろうか……昨日、私はマスクの男に首を絞められて……そのまま)

花灯は、昨日と同じ黒のシャツに黒のズボン姿のままだった。

「悪かった……」

花灯はそれ以上何も言わない。ただ、花灯がほっとした表情を、してるのだけは分かった。

「また、助けてくれたの?」

「……俺は……そんな善人じゃない」

太陽はすでに真上に登り、中庭のクスノキにたかる蝉が、ますます五月蝿(うるさ)く鳴き声をあげている。

ーーーー『蝉は人間と同じで、善人と悪人がいる』

花灯は、そう言っていた。

「私には……花灯が悪人には見えない……」

花灯は、寂しげな瞳を細めて、ふっと笑った。

「来未は、悪人にはなるな……」

「私は……猫だから……蝉でも人間でもないから、もうどちらにもなれない」

花灯の目が僅かに見開かれる。

「でもね……花灯の猫だから……何処にも行かない」

その瞬間、心臓がとくんと鳴った。

花灯の大きな掌が、黒く染められた自分の長い髪の毛を、漉くように撫でたから。

でも花灯のその瞳は、自分に向けられたものではない。

来未ではない誰かを想って、いまにも泣き出しそうだ。

「……首輪はしないよ……」

花灯は、そう言うと、立ち上がり、来未から、背を向けた。
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