記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
1コールで、でないことなんて分かってる。3コール目で出た電話の相手は、ご機嫌斜めだ。

「もしもし」 

『何?わかってると思うけど、僕、忙しいんだよね』

花灯は、ガラス戸の外に出て、家の裏手に回ると、太陽の光に目を細めながら、来未に聞こえないように、声のトーンをさらに落とした。 

「滅多にお前に電話をかけない俺が、なんでわざわざ、かけたのか、わかってんだろ」

『全くわからないね』

面倒臭気に答える声に、苛立ちそうになる。

「じゃあ言ってやるよ……来未には手を出すな」

『何のこと?』 

「分かんないとでも思ってんのかよっ」

語尾を強めた、自身の声に電話の向こうから溜息が聞こえてくる。

『へぇ……ただの猫に随分執着するんだな。そもそも、名前まで教えるなんて、お前らしくない』

「千夏こそ、死体山盛りで忙しいくせに、まだ死体作る気か?」

昨晩は、危なかった。自分が帰るのがあと少し遅かったら、来未は消されていた。それも、髪の毛一本残さずに、まるでこの世に初めから存在して居なかったかのように。

『捨て猫は、処分される運命なんだよ』

受話器の向こうで、鼻を鳴らす音が聞こえる。

ーーーー運命……。

そんなもの信じてもないし、そんなもので人の生き死にが決まってるなんてクソくらえだ。

「お前が、決めることじゃない」

『いずれ、あの猫は、お前を裏切るよ』

「それならそれで構わない……それよりも、随分と派手にやったもんだな』

最大限の嫌味を込めて発した言葉は、少しは伝わるだろうか。

『花灯、お前のせいだろ。公園の池に死体が一体あがったよ』

「俺じゃないし、どうせ自殺だろ」

『お前が言うな、元はといえば誰のせいだよ』

「それはこっちの台詞だな」

今朝、朝早く、別件で二体の遺体が発見されている筈だ。俺が、向かった時には、すでに息絶えていた。

『バレてんだ?』

茶化した様な声に混ざって、少し遠くから、初めて聞く女の声が聞こえる。

『蓮野さーん。ちょっと見てもらっていいですか?で、これって、痴情のもつれによる心中ってことですか?』

ハキハキとした口調で、よく通る高めの声だ。まだ若い。

『それでは、またご連絡いたしますので』

不意に、千夏は敬語でそう、答えると一方的に電話を切った。
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