記憶の花火〜俺が暴いてやるよ、欲望にまみれた秘密を〜
「はい」

「ちょっと……」

それだけ言うと、花灯は一階に降りていく。
慌てて来未も、花灯の後を追った。

「え?」

そこには、この花火屋には似つかわしく無い可愛らしいお客様が立っていた。

小学二年生くらいだろうか?

黒いランドセルを背負った男の子が、ショーケースを、覗き込んでいる。

「花火ください」

男の子は、小さな掌をグーにしたまま、こちらをじっと見つめた。

「えっと……」

振り返って花灯を見るが、何も言わない。

(接客しろってこと……?)

「あの、何で花火が必要なの?」

「……お母さん病気だから」

男の子は下唇を噛み締めながら、俯いた。

「いま家に帰ってきてるんだけだ、毎年、花火見に行ってて、綺麗だったから、お庭で、見せてあげたら喜ぶかなって」

「そうなんだね、優しいね。……でも、此処の花火は」

そこまでいった来未の腕が、後ろから引っ張られる。

「え?」

花灯は黙って線香花火を差し出した。

「これ……」

戸惑う来未を気にも止めずに、花灯は、そのまま黙ってパソコンを開き、入力を始めた。

小さな掌が、来未の袖を引っ張る。

「お姉さん、これで、花火買える?」

男の子が、ずっと握りしめていた拳をそっと開くと、10円玉が一枚掌に乗っかっている。

「えっと……」

花灯を見るが、こちらを気にした様子はない。来未は、男の子に向かってニコリと笑った。

「はい、足りますよ。お買い上げありがとうございます」

不安そうだった、男の子の顔が花が咲いたようにパッと明るくなって満面の笑みへと変わる。来未は、紙袋に、線香花火を数本入れると、男の子に手渡した。

「お姉ちゃん!ありがとうっ」

重そうなランドセルを、背負いながらも、何度も振り返る男の子を外で見送りながら、来未は、ふっと笑っていた。
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