隣のブルーバード
「いや、うちの実家さ。花屋の。ここんとこちょっと父親の具合が悪くて、おふくろ一人で何とか切り盛りしてるんだけど、かなりきつそうなんだよ。安井、よければバイトしない? 就職先が見つかるまででいいから」

「先輩の、実家のお店で?」
「ああ。そういえば、安井、昔言ってなかったっけ。花屋になりたいって」

 えっ、覚えててくれたんだ。
 とっくに忘れてるだろうと思ってたから、嬉しい驚きだった。

 ま、まずい。
 甘酸っぱい感情がお腹の底からじわじわとこみ上げてくる。
「えーと……」

 わー、どうしよう。
 あまりに突然のことで、頭がついていかない。

 スグ先輩は高校生時代のわたしを虜にした優しい眼差しを向けて
「今、すぐ返事くれなくても大丈夫だよ。もし、気が向いたら、連絡してくれる?」

「はい。分かりました」
じゃ、携帯の番号、教えとくわ、と言って、名刺の裏に書いて、渡してくれた。
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