隣のブルーバード
 人のもっとも素敵な瞬間に立ち会える、素晴らしい仕事。

 できれば、ずっと続けていきたい。
 そのための努力ならなんでもできる。
 そう思っていた。

 12月になり、店頭に並べたポインセチアの華やかな赤が目を楽しませはじめたころ、幸恵さんに、ちょっと話があるからと、店の奥に呼ばれた。

「いつも一生懸命に働いてくれてありがとうね。そんな沙希ちゃんには、とっても言いにくい話なんだけど……」

「と言うのは……」
「お父さんと話し合って、このお店、来年の3月で閉めようかと思っているの」

 ああ、やっぱり。
 うすうす感じてはいた。 不動産会社の人がたびたび訪ねてきていたから。

「お父さんもわたしも六十を超えたし、引退の潮時かと思ってね。優も結婚するし、お父さんとふたりで、今までできなかった旅行もしたいねって」
< 29 / 68 >

この作品をシェア

pagetop