隣のブルーバード
「縁談が持ち込まれるなんて、沙希もそんな歳になったんだねえ」

 夕飯を終え、食卓で母は感慨ぶかげな顔で、そう言った。

「うん、でも断ろうかな」

「あら、結構いいお話かもしれないわよ。お花の卸売り業者の息子さんなんでしょう? お花に詳しいだろうから、沙希ちゃんと話も合うかもしれないし。会うだけ会ってみれば?」

「でも、まだ結婚とか、ぜんぜん頭にないし」

「そんなこと言ってると、あっという間に声も掛からなくなるんだから」
「そんなもんかな」

 そんな話をしているとき、お母さんの携帯が鳴った。

「お父さんがN駅まで迎えに来てくれだって」
「N駅まで?」

「そこからの電車が停まっちゃってるらしいの。事故か何かで。せっかくだから映画でも見てこようかな。ただのお迎えっていうのも、なんだかしゃくだし」

「うん、デートしてくれば、お父さんと」
「そうね。映画は冗談だけど、お茶ぐらいしてくるわ」

 そんなことを口にしながら、せかせかと出かけていった。
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