隣のブルーバード
 一度溢れだしたら、もう歯止めが利かなかった。
 裕生は何も言わずに立ち上がると、わたしの前にきた。

 彼の、骨張った首が涙でにじむ視界に入ってきた。

 喉仏が目立つ男っぽい首。
 生えかけた顎ひげ。
 
 これ、誰?
 今、わたしの前にいるのは。

 幼なじみの裕生のはずなのに、知らない男の人みたい。

「おれだって……」

 裕生は、わたしの顔を見つめて、吐きだすように言った。

「……ずっと苦しかったよ。ずっと。沙希と同じだけ……」

 裕生がわたしとの距離を一歩つめる。
「沙希……」

 最初はつまずいたのかと思った。
 でも、違った。

 裕生はわたしを、息が止まってしまいそうなほど、きつく抱きしめた。

「沙希が早いとこ、あいつとくっつけば良かったんだ」

 耳のすぐそばで、裕生の声がする。
 彼の吐息がわたしの首筋をくすぐる。
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