隣のブルーバード
 裕生は一度身体を離すと、わたしにまっすぐな視線を向けた。

「でも……好きでもない男と付き合うとなれば、話は別だ。嫌だ。おまえを誰にも渡さない」

 裕生はわたしの手首を掴むと、ソファーまで引っ張っていき、強い力でその上に押し倒した。

「ち、ちょっと……裕生、待って」

 そのまま覆い被さり、わたしの唇を奪おうと顔を寄せてくる。

「やめて……」
 手がわたしのセーターの裾にかかる。

 こんなの、裕生じゃない!

「いやっ!」
 わたしはとっさに裕生の頬を平手で打った。
 眼鏡が傾げてしまうほど強く。

 その瞬間、スイッチが切れたように裕生の動きが止まった。

 今の平手打ちで我に返ったのだろう。
 気まずそうに視線を逸らし、そのまま、リビングを飛びだしていった。
 
 わたしはしばらくその場から動けなかった。

 テーブルに置きっぱなしにしていた湯呑みが倒れて、お茶が床へポタポタと垂れている。
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