隣のブルーバード
 とにかく、もう少し時間がほしい。

 そのことをちゃんと裕生に伝えなきゃ。

 ようやく気持ちが落ち着き、立ち上がることができた。

 こぼれたお茶の後始末をすませ、2階に上がった。

 
 裕生は部屋にいた。
 カーテンにシルエットが映っている。

「裕生」
 窓を開け、彼の名前を呼んだ。
 
 空気が澄んでいて、月も星も眩い光を放っている。
 
「裕生」
 何度呼んでも、彼が顔を出すことはなかった。


「ただいま?」
 階下からお母さんの声が響いてきて、わたしは諦めて窓を閉めた。
 
 すこし時間をおいたほうがいいかもしれない。
 そのほうが、わたしの頭の整理もつくだろうし。

 明日、ゆっくり話そう。

 そう思い、その日はそのまま床についた。

 
 でも、翌日、仕事が終わってから訪ねたら、裕生はもういなかった。

 叔父さんが、急に下宿に帰っていったよ、と。
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